



2014年7月23日 放送
イタリア半島中央部を流れる「テヴェレ川」。
全長は約400キロメートル。イタリア国内で三番目の大河です。
川は、半島を南北に縦断するアペニン山脈の中のフマイオーロ山を水源とし、
古代の聖人たちが歩いた巡礼の道の近くを流れ、ティレニア海に注ぎます。
アペニン山脈に、水の伝説を持つ修道院があります。
カマルドリ修道院です。修道院が建てられたのは11世紀。
カトリックで最も古い会派のひとつ、ベネディクト会の修道士、聖ロムアルドによって創設されました。
道路に面した水道施設に、近隣の山々からの湧き水が流れています。
この水は修道院の生活用水にも取り入れられています。
テヴェレのほとりに、川の水が産んだ伝統工芸があります。
レオナルド・ルッツィ工房、籐かご作りの工房です。
籐は、アフリカやアジアなどで多く見られますが、
イタリアでも古くから工芸品の材料に使われてきました。
この工房では19世紀から籐細工の日用品を作り続けているそうです。
テヴェレ川の水で育った籐は、特に腰が強いといいます。
イタリア中央部を流れるテヴェレ川上流には、中世の村アンギアーリがあります。
テヴェレ川を見下ろす高台の村。
その立地の良さから15世紀に、フィレンツェとミラノによる、
激しい争奪戦の舞台となりました。
村には、世界的な有名ブランドの本店があります。ブサッティです。
創業1842年の伝統的織物メーカーです。
高品質の布製品で知られ、今も昔ながらの天然染料による手染めを行っています。
ヨーロッパ各国をはじめ東京にも店舗を展開しています。
角礫岩の上にあるアンギアーリは地下水が豊富で石灰分が多いため、
染色に良い影響を与えます。
染料もグアード、タマネギ、カイガラムシなど天然のものが使われています。
ブサッティの布製品は、アンギアーリの自然が写しとられています。
テヴェレ川中流には、ウンブリア州都のペルージャがあります。
中世の面影が色濃く残る旧市街。街の中央にある噴水に水を供給していた水道橋が、今も遊歩道として残っています。
ペルージャの街の郊外には、世界遺産で古代ローマの古都アッシジがあります。
聖フランチェスコの生誕の地として知られています。
2000年に世界遺産に登録された大聖堂は、
中世ルネサンスの画家たちによるフレスコ画が、
完成直後と見紛う様な鮮やかな色を放っています。
特に貴重とされるのが、中世ゴシックの巨人として美術史にその名を残す、
ジョットによる一連のフレスコ画です。
贅沢を捨て、自然の中で身一つだけでイエス・キリストに従った
聖フランチェスコの哲学が大聖堂の中に生きています。
5月、アッシジではカレンディマッジョという、年に一度の祭が開催されます。
中世の楽隊や貴族の衣装を着た地元っ子たちが、街中を練り歩きます。
この祭りは、アッシジの複雑な歴史から生まれました。
アッシジはかつて、街の上部と下部の支配者が分かれ、常に戦闘状態にありました。
しかし長くて厳しい冬の来るアッシジでは春が訪れるひとときのみ休戦し、
街中で恵みの季節の訪れを祝いました。カレンディマッジョは街が2つに分かれますが
武力で戦うことに代わり、衣装や出し物の美しさを競う祭になったのです。
アッシジから南へ約55キロ。
トーディは、テヴェレ川を見下ろす標高400メートルほどの丘の上に
紀元前8世紀ごろに建設された古い街です。
トーディの中央広場の地下には、街の歴史を物語る大きな空間があります。
地下約8メートル。古代ローマ時代に街の繁栄を支えた貯水槽です。
標高の高い街に水をひくのが大変だったため、
雨水を貯めて、市民の生活用水を賄っていたのです。
容積は全部で約7000立方メートル。
トーディの街づくりは、この水槽がなければできませんでした。
テヴェレ川がラツィオ州に入ると、ティレニア海の手前でローマにたどり着きます。
カトリックの総本山、バチカン市国を抱く聖地ローマ。
その誕生にはテヴェレ川のある伝説が関わっています。
はるか昔、ロムルスとレムスという双子の兄弟がテヴェレ川に流されたところ、川の精霊によって命を救われました。
やがて成長した兄弟が築き上げたのが、この永遠の都、ローマだそうです。