



2014年3月26日 放送
インド北東部。ガンジス川のほとりに位置する街、バラナシはヒンドゥー教の聖地とされ、世界中から巡礼者が訪れます。
ヒンドゥー教は、紀元前5世紀頃に古代バラモン教より生まれた宗教です。
その特徴のひとつに河川崇拝があり、水を使った儀式が重要視されています。
特にガンジス川は川の水そのものが聖水とされ、信仰の対象となっています。
ガンジス川の岸辺には、人々が沐浴をするための場所が作られています。
ガートです。
「川辺の階段」を意味する「ガート」というその名の通り、
人々が川面に下りられるよう、階段になっています。
ガートはバラナシの町だけでも84箇所もあります。
ガンジス川の化身とされる女神がいます。ガンガーです。
神話では人の霊を浄化する為に、地上に流れ降りました。
その化身であるガンジス川もまた、人々に恵みをもたらし続けると信じられています。
ガンジスの功徳は、生きている人に対してだけではなく死者にも及びます。
また、聖地バラナシは、
インドを代表する絹織物の名産地としても知られています。
インドの女性の伝統衣装、サリーは長さ5メートルほどの絹の一枚布からなります。
シルクの糸は他の素材に比べて細く弱い為、湿度が高すぎても低すぎても
切れやすくなります。バラナシの湿度はそれにちょうど適していると言います。
また、染織に使う地下水もバラナシでは良質なものが豊富に湧き出ているため、色鮮やかな絹織物が生みだされるのです。
バラナシ中心街の喧騒から少し離れると、
静かなオアシスのような場所があります。ナデサール・パレスです。
17世紀にイギリスの東インド会社が建てた建物で、
その後、インドの貴族が宮殿として買い取り、19世紀にホテルに改装されました。
ホテルの自慢は、「アジアで最高」と称されたスパ施設です。
なかでも、大河ガンジスの水を使ったマッサージのコースが人気。
汲み上げた後に徹底的に浄化されたガンジスの水で体を清めながら
完全オーガニックの牛乳やヨーグルトで作ったペーストで
全身をくまなくマッサージすることで、心も体もリラックスできます。
ヒンドゥー教が殺生を禁じている為、インドでは多くの人がベジタリアンです。
インドには、健康に育った季節の野菜を使ったカレーがたくさんあります。
アーモンドなどをあわせたトマトペーストを炒め、
カッテージチーズとクミンやコリアンダーなどの香辛料を加えたカレーなど
ベジタリアンでも、ボリュームたっぷりのパワーフードが楽しめます。
ガンジス河畔では毎日、日が暮れると
朝の沐浴よりも盛大なイベントが開催されています。
ガートの上に設けられた舞台での祈りの儀式、プージャーです。
若い7人の選ばれた7人の若い僧侶がおよそ1時間、川の女神に祈りを捧げます。
儀式のクライマックスには、7人の僧侶の手によって一気に炎が焚かれ
勢い良く振り回されます。
こうした行為により、神を一斉に呼び寄せることができると信じられています。
ガンジス河畔のバラナシから西へおよそ300キロ。
インド中央部のカジュラホは、世界遺産の町として知られています。
9世紀から13世紀にかけてこの土地を治めたチャンデラ朝の遺跡。
東西2キロ南北3キロほどのエリアに点在する25の寺院群です。
カジュラホの寺院群には、壁一杯に施された人の形の彫刻があります。
そのデザインが異色で、どの彫刻も官能的に腰をくねらせています。
最も有名な装飾が、男女の営みを描いた「ミトゥナ」と呼ばれる彫像です。
ヒンドゥー教の三大目的「義務」と「性愛」と「実利」のひとつ、
「性愛」を表しています。
寺院が作られた当時、国の人口が減っていたことに悩んだ王が
子作りを推奨するために作らせたそうです。
しかしヒンドゥー教において、性愛は決して恥ずべきものではありません。
人間がより良く生きるために必要なもの、
生命への讃歌や豊饒への願いが込められているのです。
カジェラホ近郊では、農業や漁業で生計を立てる人が多くいます。
しかし漁や収穫をするのは、自分たちが食べる分だけ。
北インドの民族の、こんな言い伝えがあります。
「最後の木が切られたとき、最後の魚が釣られたとき、最後の川が毒されたとき、あなたは、お金を食べることができないということを悟るだろう」
インドには、自然に寄り添うシンプルで豊かな暮らしがあります。