放送内容
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2020年3月8日
車いすテニス界の絶対王者、世界ランキング1位、国枝慎吾。
いよいよ半年後に迫る、東京パラリンピック。金メダルに最も近い、日本が誇
る絶対王者、しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
右ひじのケガで不完全燃焼に終わったリオ大会。
再び輝きを取り戻すべく環境を一新した。
ゼロからのスタートを選んだ絶対王者。
全ては東京で栄冠を掴むため。
今回は、オーストラリアでの緊急取材、「NEW国枝慎吾」の戦いに密着。
そこには、進化した王者の姿があった。
パラリンピックイヤーに突入した今年1月、冬の日本を離れ、取材班が向かったのは暖かいオーストラリアのゴールドコースト。
ツイードヘッズ・車いすテニス選手権。
グランドスラムに次ぐスーパーシリーズとあって、ランキング上位の選手たちが勢ぞろい。国枝選手とパラリンピックで金メダルを争うライバルたち。
健常者と同じコートで行う車いすテニス。
基本的なルールは一緒だが、1番の特徴は2バウンドまでの返球が認められているということ。
国枝選手は2回戦から登場。
相手はかつて、世界ランキング1位にもなった実績を持つオランダのシェファース選手。
初戦から王者の強さ全開。難なく勝ち進んだ。
続く準々決勝も快勝し、準決勝の相手はリオ大会の金メダリスト、イギリスのリード選手。
力強いパワーテニスで攻めてくる強敵。パラリンピックに繋がる注目の一戦。
この日の国枝選手は絶好調。寄せ付けない強さで強敵を圧倒。
わずか2ゲームしか奪われず完勝。
国枝選手のこの強さ、それは、ここまで試行錯誤を繰り返した努力の証。
去年8月、千葉県柏市。
猛暑の中、練習をする国枝選手。この日は、33度を超す真夏日。暑い中でも、試合さながらの気迫で全力練習。
国枝「この時間でやればどこでも大丈夫。東京パラリンピックは1カ月ズレる」
来たる本番に備え準備をする。これぞ一流。
さらに、この日は新しいラケットを用意して、繰り返し試す姿も。当たった時の感触、グリップの感覚、そこに全神経を集中させる。
しかし、東京パラリンピックを控えた、この時期に使い慣れたラケットをあえて捨て、新しいラケットに変えるのは大きな決断では…
実はそこには、ライバルの存在があった。
国枝「フェルナンデスですね、完全に。あれほどのパワーで打たれるとラケット弾かれてしまう。ラケット面からアプローチ出来ないか?」
国枝選手が最も警戒するのはアルゼンチンのフェルナンデス選手。
強靭な肉体から放たれる、パワフルなショットを武器にグランドスラムのタイトルをいくつも手にした、注目の26歳。近年、車いすテニスの主流はフェルナンデス選手を代表するようなパワーテニス。
レベルが上がった、その背景には、ある事情があった。
国枝「車いすテニスで金が稼げるようになった。グランドスラムの大会の賞金は5年前に比べて5倍くらいになった。グランドスラムで優勝すれば食っていける。健常者のプロ選手に意識が近づいてきたと思う、それがレベルを引き上げている」
そんな流れに対応するため国枝選手は2017年、新たに岩見コーチと契約。環境を一新した。変えたのはラケットとコーチだけではなく、これまで使ってきた車いすまで変更。半年以上を費やし、新しいスタイルを追い求めてきた。
2004年、アテネ大会でパラリンピック初出場を果たし、ダブルスで金メダル。
4年後の北京大会ではシングルスで金メダルを獲得。さらに絶対王者として臨んだロンドンで連覇を達成。車いすテニスの最高峰、グランドスラムでもタイトルを総なめ。これまで、なんと23勝。
国枝選手を世界一の座に押し上げたのはストロングポイントの全てを支えるチェアワーク。
どんな返球にも、すぐさま対応。隙のないパーフェクトなテニスで世界を席巻。
そんな国枝選手が新たなスタイルを模索し始めたキッカケ、それは…。
3連覇をかけ臨んだ前回のリオ大会。
大会直前に手術した右肘の影響で準々決勝敗退。
肘への負担は予想以上に大きく、リオの後も痛みが引くことはなかった。
その間、若手が台頭し世界1位からも陥落。
しかし、そんな彼を突き動かしたのは王者のプライド。
国枝「リオという舞台は怪我に泣いた。怪我がない状態で頂点にいる選手に挑んで、決してお前らに劣ってないと証明したかった」
復活に向け、まず取り組んだのは不振の原因となった肘に負担のかからない新たなバックハンドの打ち方。
以前はボールを打つ瞬間、前に力を与えるようにラケットをふっていた。
今のバックハンドでは上に力を逃がすように打ち、肘への負担を減らした。
国枝「昔の方が手打ち気味だったのかな、今は肩で打っている感じ。間違いなく車いすテニス全体のレベルはあがっている、そこをリードしたい。新しい国枝を作るときにどんな武器が必要かと考えた時にチェアもラケットもコーチも、すべて自分で決断して変えました」
変化を恐れずに必要なものは積極的に取り入れ、変えていく。その柔軟な姿勢こそ、NEW国枝慎吾の強み。
さらに東京に向け、新しく取り入れたものが。その新たな武器とは!?
国枝「まぁ、ショットのパワーですね、運動の連鎖を工夫することで全体的にパワーアップした。球の伸びは以前よりあるので、相手を終始押せてたので、すごく良い展開」
決勝に向け、意気込みは?
国枝「もちろん優勝目指して頑張ります」
優勝まで、あと1勝。
相手は、リオ大会・シングルス銀メダリスト、イギリスのヒューイット選手。
ここで勝利を手にし、半年後に迫った東京に向け、その強さを世界に証明したいところ。
第1セット、ゲームカウント3-4でリードされるも、そこから3ゲーム連取で、6-4で奪取。
続く第2セット。
リオの銀メダリストに1ゲームも与えず、まさに圧勝。
生まれ変わったNEW国枝慎吾、2020年、幸先の良いスタートを切った。
オーストラリアの大会でリオのメダリストたちを次々と撃破した国枝選手はその後、全豪オープンも制覇。
東京に向け見据えるのは、ただ1つ…リオでは届かなかった金メダル。
国枝「2020年を迎えて、全豪オープンで優勝できたのはパラリンピックイヤーに明るいニュースを届けられた。もちろん金メダルを目指して頑張っている。残り半年の間、ケガに気を付けて、存分に力を発揮できたらと思う」