放送内容
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2019年10月13日
パラカヌー期待の星、瀬立モニカ。
彼女には誰にも負けない武器がある。
「水をキャッチする柔らかなパドリング」
肩甲骨の柔軟性を生かした、独自のパドリング技術。
競技を始めてわずか1年で日本のトップに踊り出た。
さらに、2年後…
夢の大舞台、パラリンピックで初出場ながら8位入賞。
そして、来年の東京パラリンピックへは今年8月の世界選手権で出場を内定させた。
3年前のリオ大会と比べ、なんと14秒以上のタイム短縮。
彼女に起きた驚きの変化とは?
さらなる好記録を目指し出場した先月の日本選手権。舞台は東京パラリンピックの本番会場。
1年後を見据えた戦い、飛躍的な成長を遂げる、パラカヌー界のヒロイン。
その飽くなき挑戦を追った。
先月、東京都江東区で行われたパラカヌーの日本選手権。
「海の森 水上競技場」は来年に迫った、東京パラリンピックのカヌー会場。
首都圏では唯一、国際大会が開けるコースとして5月に完成した。
水路を活用して整備された競技場は長さ2300メートル、幅200メートル。
観客席は立ち見も合わせると最大1万6千人が収容可能。
中学生の頃、江東区が主催するジュニアカヌークラブに参加。
バスケットボール部との掛け持ちでカヌーを楽しんでいた瀬立選手。高校一年の時、ケガで体幹機能障害に。胸から下が動かなくなった。
それでも、持ち前のガッツでカヌーに再挑戦。
瀬立「中学校の部活は学校の友達といっしょにやって楽しい。パラになって一気に世界を目指すようになって自分で練習に対する意識の差、1回1回の練習を大切にするようになったら(記録が)本当にガーと伸びました。めっちゃ楽しいです」
すると16歳の時、初めて挑んだ日本選手権でいきなりの優勝。
すぐに、日本代表となると、初めての世界選手権では決勝に進出。9位と大奮闘。そして迎えた夢の大舞台、リオパラリンピックでは8位入賞を果たした。
リオの直後、東京への想いを聞いてみると?
瀬立「リオに参加して2020年の東京で覚悟ができたと思う。(4年後の自分が)もう見えています。表彰台に上ってます」
瀬立選手のストロングポイントは水をキャッチする柔らかなパドリング。
その秘密は持って生まれた体の特徴と幼い頃から培ってきた、あるスポーツに隠されている。
健常者のパドリングは体幹を使って漕ぐのが、カヌーのセオリーとされている。
一方の瀬立選手は体幹を使えない分、肩を大きく動かしている。
障がいをカバーする肩甲骨の柔軟性。抜群の可動域で自慢のパドリングを生み出している。
さらに、ストロングポイントを生み出すもう一つの秘密。
それは、3歳から始めた水泳。実は、小学生の頃、強化指定選手だったという瀬立選手。水泳とカヌーには、ある共通点があると言う。
瀬立「水を捉える感覚は水泳と似ているので、水をかくキャッチの綺麗さは海外の選手に比べて綺麗だと思います」
フィジカルや持久力の強化に加え、この「水をとらえる感覚」を養うために彼女は今も水泳を続けている。
瀬立選手のストロングポイントは肩甲骨の柔軟性と水泳で鍛えられた感覚が支えていた。
パラカヌーは200mの直線水路でタイムを競うスプリントレース。
パラリンピックではリオ大会から正式種目として採用された。
ゴールまでのおよそ1分間を全力で漕ぎ続ける実にハードな競技。
瀬立選手は先月ハンガリーで行われた世界選手権に出場。予選、準決勝と2度に渡り54秒台の自己ベストを叩き出した。
今回の日本選手権で更なる好記録に期待が高まる中、瀬立選手には、このレースで確かめたいことがあった。
それは、パラリンピック本番でも戦う、この会場の特性。
瀬立「全然風もなくてとてもいいコンディションなので、きっといい記録が出るんじゃないかと思います。やっぱり潮の流れがどうしてもあるのでふわふわ浮く感じ、海水で船自体も浮いているのでそこに後半どれだけ体をブラさずに軸を保ちながら漕げるかが今回のポイント」
果たして、進化した瀬立選手はどんなタイムを出すのか?
勢いよくスタート。
しっかり水をキャッチし、グイグイと進む。他のレーンの選手は障害クラスが違うため、ライバルは自分自身。
タイムは59秒94。
瀬立「バリ疲れました。めっちゃ緊張しました。初めてだったんで。スタートはいい感じだったけど後半リズムが崩れた」
パラリンピックと同じ舞台を意識しすぎたのか、自己ベストは更新できず。
それでも、コンスタントに1分を切れるようになるまでには様々な変化があった。
中でもポイントとなるのが「3つの変化」。
まずは・・・
瀬立「(パドルを)新しくして長くしました。5cmくらい長くしました。1cmでも感覚が変わるので、5cm長くしたら最初はすごく怖かった。長くすれば長くする分だけ引くのにパワーが必要になる。そのパワーに耐えられる長さにしないといけない」
パドルを長くしたことで、体の軸がブレにくくなった。
長いパドルを扱うには、厳しい筋トレが必要。
重さ10キロの車いすを体に固定し、そのまま懸垂。
さらに、水の入った重りを左右に振り続ける筋トレ。
そして、2つ目の変化は「トレーニング法」。
瀬立「カヌーだけの知識じゃたりない。他のパラリンピアンの他の種目をやったりして、いろんなトレーニング方法だったり心構えとか教えてもらった」
冬場には雪山でアルペンスキーの合宿をするなど、トレーニングの一環として他の競技にも挑戦。
そして、3つ目の変化は「食生活」。
瀬立「体的にもようやくアスリートになってきた。今までは焼肉食べたいって言って暴食していたのが、ご飯も食べてお肉はそこそこにタン塩とハラミを食べるように変わってきた。食事のコントロールや自分をコントロールできるようになった」
その成果は結果にもあらわれ、世界トップとの差はおよそ3秒まで縮まった。
瀬立「大きい差ではあると思いますが詰められない差ではない。この5月から8月の3ヶ月で5秒縮めることができたので、乗り越えられない差ではない」
飛ぶ鳥を落とす勢いの瀬立選手。今後の課題は?
瀬立「後半の100M~200Mが他の選手より(スピードが)落ちてきてしまうので、そこに耐えられるような持久力的なトレーニングが必要になってくる」
最後に東京への意気込みを聞くと。
瀬立「毎日緊張感をもって寝る、そのくらいまで自分を追い込んでいきたい。覚悟を決めて2020年の9月5日にすべてを出し切れるように。冬場すごいつらい練習が待っていると思うんですけど頑張っていきたい」