放送内容

放送内容

第223回 パラカヌー 瀬立モニカ⑥

2020年8月9日

水上のパワフルヒロイン、パラカヌーの瀬立モニカ選手。
競技を初めてわずか1年で日本のトップに躍り出ると、2016年のリオパラリンピックに出場し、8位入賞。
そして去年の世界選手権ではリオのタイムを14秒以上も縮め、自己ベストを大幅に更新。
いち早く東京パラリンピック出場内定を掴みとった。
そして、初のメダル獲得へ順調に調整を進めていた中、新型コロナウイルスの影響でパラリンピックの1年延期が決定。
気になる彼女の近況をリモート取材。

密着取材を初めて早4年半。
最新取材で明らかになったのはさらなる進化。
そして、高校生の時から思い続けている夢とは・・・
瀬立モニカ選手22歳。
彼女の軌跡と最新トレーニングに迫った。

去年12月。
沖縄県の大宜味村で合宿をしていた瀬立選手。

瀬立「東京パラリンピックの海の森水上競技場が海ということもあって同じ浮力で練習したい、同じ水を漕ぐ感じで練習したいという希望があって日本でどこかないか探した時に、沖縄県の大宜味村を拠点に合宿することになりました。」

カヌー競技は湖などの淡水で行う会場と、海で行う海水の会場がある。東京パラリンピック、カヌーの競技会場となる海の森水上競技場は100%海水。瀬立選手は、パラリンピック本番を見据え、水質(環境)が似ている沖縄の塩屋湾を練習拠点に選んだ。
瀬立選手の地元は東京パラリンピックのカヌー競技が行われる江東区。区ではカヌー協会を発足し、地元出身の選手育成に力を注いでいる。瀬立選手は怪我をする前の中学生から、このジュニアカヌークラブに所属していた。しかし、高校一年の時、ケガで体幹機能障害に。胸から下が動かなくなった。
それでも持ち前のガッツでカヌーに再挑戦。

瀬立「中学生の部活は学校の友達と一緒にやって楽しいって感じだった。パラになって一気に世界を目指すようになって自分で練習に対する意識の差、1回1回の練習を大切にするようになったら(記録が)ガーと伸びました。めっちゃ楽しいです!」

すると16歳で挑んだ初めての日本選手権でいきなりの優勝。
すぐに日本代表になると初めての世界選手権では決勝に進出し、9位と大奮闘。
そして迎えた夢の大舞台、2016年のリオパラリンピックでは8位入賞を果たした。
瀬立選手のストロングポイントは、水をキャッチする柔らかなパドリング。その秘密は持って生まれた体の特徴と幼い頃から培ってきたあるスポーツに隠されている。
健常者のパドリング。体幹を使って漕ぐのがカヌーのセオリーとされている。
一方の瀬立選手は体幹が使えない分、肩を大きく動かしている。障がいをカバーする肩甲骨の柔軟性。抜群の可動域で自慢のパドリングを生み出している。
さらにストロングポイントを生み出すもう一つの秘密。
それは3歳から始めた水泳。
実は小学生の頃、強化指定選手だったという瀬立選手。水泳とカヌーにはある共通点があるという。

瀬立「水を捕らえる感覚は水泳と似ている水をかくキャッチの綺麗さは海外の選手に比べても綺麗だと思う」

肩甲骨の柔らかさと水泳で培った“水を掴む感覚”が瀬立選手の活躍を支えている。
パラカヌーは200メートルの直線水路でタイムを競うスプリントレース。パラリンピックではリオ大会から正式種目として採用された。ゴールまでのおよそ1分間を全力で漕ぎ続けるこのハードな競技。瀬立選手はリオ後のインタビューである目標を掲げていた。

瀬立 「今出てるのは1分3秒、環境とかにもよるどんな状況でも1分を出せる状況を作っていきたい」

1分という記録は、リオパラリンピックで銅メダルに相当するタイム。
どんな状況でも1分を切れる選手になる。厳しいトレーニングに明け暮れた瀬立選手は、去年8月、ハンガリーで行われた世界選手権で、54秒61という驚異的なタイムをたたき出し自己ベストを大幅に更新。東京パラリンピック代表に内定した。3年間で10秒以上もタイムを縮めてきた彼女。去年9月には、東京パラリンピック会場の「海の森 水上競技場」で行われた日本選手権に出場。
タイムは59秒94。
自己ベストは更新できなかったものの、目標と掲げていた1分を切った彼女。
あれから1年、このタイムについて聞いてみると…。

瀬立「あんまり嬉しくないです。たぶん59秒とかは練習でも出るタイムなので、今年の目標は無風の状態で200メートル55秒で漕げることにするのが目標」

さらに高い目標を立て、東京での金メダルを目指す瀬立選手はいくつもの変化を遂げてきたと言う。
まず1つ目の変化は。

瀬立「カヌーの知識だけじゃ足りない。他のパラリンピアンの他の種目をやったりして、いろんなトレーニング法や心構えを教えてもらった」

雪山でのアルペンスキー合宿や、腕の力を利用した自転車、更にはボッチャにも挑戦。
そして今、新たに始めたチャレンジが。

瀬立「クライミングの壁があって、ちょっと登ってみようかなって思ってどうしようもないですけど、登ってます」

そして変化2つ目は。

瀬立「今まで、肘の位置が高かった、パドルを押す時に、その肘の位置をしっかり下げて、なるべくシャープな軌道で漕げるように変えました。」

海水でも安定して漕げる「フォームの改善」。
去年の日本選手権でのフォームは漕ぐ時に肘が上がっていたため、体が安定しなかった。
そして、現在のフォーム。
肘を肩より上にあげないことで体のブレがなくなり、早いピッチをキープできるようになった。

そして変化3つ目は・・・

これまで、重さ10キロの車椅子を体に固定し、そのまま懸垂をしたり、水の入った重りを左右に振り続ける筋トレなど人並みならぬ筋力トレーニングに励んできた瀬立選手。
しかし実は今、新たな筋肉強化ポイントが。

瀬立「今年のテーマは三頭筋。二の腕のところなんですけど、水をキャッチするときに、水をしっかり押さえ込むときに使う。カヌーの動作として重要な筋肉。そのためにめちゃめちゃ鍛えました」

新型コロナウイルスの影響で1年の延期が決まった東京パラリンピック。そんな逆境の中でも進化を続ける瀬立モニカ選手。
密かに思い続ける、夢について語ってくれた。

瀬立「大学を卒業する。セカンドキャリアを考えたときに、今までの自分の経験を最大限に生かせるかつ、私が怪我したときに主治医の先生が私に光を照らしてくれた先生がいて、そういった先生になりたいという憧れがあったので人の役に立てる仕事につきたい。言うのは簡単なんですけどね。がんばります。」

シェア
LINE