放送内容

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第212回 パラテコンドー 太田渉子②

2020年4月19日

パラテコンドー 太田渉子。
去年の世界選手権、ランキング1位の選手に勝利し銅メダル。東京での活躍が期待される代表候補。
そんな彼女には誰にも負けない武器がある。

「強い体幹を生かした横蹴り」

瞬時に間合いを詰め放つ、カットと呼ばれる横蹴り。この得意技で世界を狙う。
海外の大柄な選手に勝つために習得した、ある秘策。さらに束の間の休日にも密着。
パラリンピックに向け、急成長を続ける太田の挑戦を追った。

文京区・千駄木。
太田選手の練習は週に4日。小学校の体育館などを借り、仕事終わりの夜からテコンドーの稽古を行っている。
パラテコンドーは東京パラリンピックから採用される新競技。

太田「パラリンピックで注目されているので、この機会に競技の面白さだったりスポーツの価値をたくさんの方に知っていただきたいなと思います」

さらに、注目されている理由、その1つが彼女の異例の経歴。

1989年、山形に生まれた太田選手。
先天性左手全指欠損という障がいで、左手の指がない。小さいころから運動が大好き。中でも、のめり込んだのがスキーだった。

太田「友達に誘われてスキーのスポーツ少年団に入って中学でもスキー部に入ったので小さいころからスキー漬けの毎日でした。」

次第にその才能は開花。
16歳でトリノパラリンピックに出場すると、バイアスロンで銅メダルを獲得。
さらに、2010年のバンクーバーではクロスカントリーで銀メダル。
ソチでは日本代表の旗手も務めた、トップアスリート。
そんな彼女が2014年、スキーの引退後始めたのがパラテコンドー。きっかけは、あるメダリストの存在だった。

太田「シドニーオリンピックのメダリストの岡本依子さんとお会いする機会をいただいて、岡本さんにテコンドーの体験だったりとか、今通っている道場を紹介していただいて始めるようになったのがきっかけです。」

岡本依子さんといえばシドニーオリンピックで日本人初の銅メダルを手にした女子テコンドーのパイオニア。
太田選手が初めてテコンドーを体験したのを見て、想像以上のポテンシャルを感じたと言う。

岡本「体幹がすごくて、もし自分がこの体幹やったらって、普通の人とは違いました。」

本格的に競技をはじめると、すぐに頭角を現し、2018年の全日本選手権で優勝。去年の世界選手権では世界ランキング1位の選手を破り銅メダル。パラテコンドーのトップ選手へと成長した。

ここで、パラテコンドーのルールを簡単におさらい。
試合が行われるのは8角形のエリア内。腕や手に障がいがある選手が2分3ラウンドを戦う。健常者のルールと違い、頭部への蹴りと手での攻撃が得点にならない。胴に蹴りが入ったときに、得点になる。

太田選手のストロングポイント、それが「強い体幹を生かした横蹴り」。
半身に構えた状態から前足で素早く放つ横蹴り、通称カット。ボクシングでいうところのジャブのような技で、決まれば2点。
太田選手が試合で、どのように駆使しているのか。
今年1月、パラアリーナで行われた大会。エキシビジョンマッチとして太田選手は、健常者を相手に試合を行った。
1ラウンド終了間際、太田選手のカットが決まった。

岡本「ノーモーションでそのまんますっていくから、パンてそのまんまあたるいいカットやなと思いました。」

体の重心が低いと、蹴るまでのモーションが2段階になり相手に動きを読まれてしまう。しかし太田選手は体幹が強く、重心を高く維持できるため、ひと動作で速いカットが蹴れるのが強み。
さらに、太田選手のカットのもう1つの特徴は、体重がしっかりのった蹴りの威力。
その後も、太田選手は速くて強いカットで得点を重ね、最後カットでポイントを奪い勝利。13点のうち8点がカットでのポイントだった。

ところで試合は、まさに蹴りの応酬、どのように有効な蹴りを判断しているのか?

太田「パラテコンドーは今、青と赤のつけてる電子防具を使って競技を行います。足に履いているのも同じく電子ソックスなんですけれど、このソックスが胴にクリーンヒットするとポイントが自動的に入るようになっています。弱いと得点にならないで、ただここに反応した10っていうのが反応した証拠にはなるんですけど、これがわたしの階級ですと16以上の強さが必要になります。」

しっかりと強い蹴りを当てることで自動的に得点が入るシステム。
太田選手はカットに威力があるため当たった時に得点になりやすいというメリットが。
その他にも、もしカットが胴にクリーンヒットしなくても、その威力で相手を場外に押し出したり、倒すことができれば、相手の反則として1点奪うこともできる。
ほかにも高得点を得る方法がある。
太田選手の得意技カットなどの蹴りは2点だが、難しい技には加点がつき、半回転して蹴ると3点。1回転するターンと呼ばれる、一番難易度の高い技は4点と回転に応じて得点が変わる。
ところで、3点や4点の技はどのように得点を判別しているのか?

太田「自動的に入るポイントは基本的に2点で高得点の難易度の高い技は技術
点になるので、それは目で見て副審の方が入れています。」

テコンドーの試合では主審が1人、ほかに副審が3人いる。
副審の手元を良く見ると、持っているのはリモコン。これを使って、3点の技のときには1点分、4点の技では2点分、手動で得点を追加している。

現在、世界ランキング8位の太田選手。
メダルを獲るには倒さなければならない強力なライバルがいる。
それが世界ランキング1位、イギリスのエイミー・トゥルーズデール選手。

太田「身長も高いしいろんな蹴り技ができるので、技も脅威になりますし試合の駆け引きもうまい。この選手と互角以上に戦えるようにしていきたいと思います。」

海外選手との対戦で、ネックとなるのが身長差。
太田選手は58キロ超級の中でも低い164センチ。対してライバルのトゥルーズデール選手は10センチ近くも高い。太田選手の得意技、カットも相手に届かなければ意味がない。

岡本「ステップでサイドに回ったりしてポジションを変えてたり、自分より大きい選手になるとまたそういう戦い方をしていかないと。」

ステップでサイドに回り込む動きが重要。相手に的を絞らせないのが狙い。
世界と戦うため太田選手がいま習得中のテクニックとは?
太田選手を指導する小池師範が考える、その対策とは?

小池師範「相手は足が長い、リーチが長い分内側に入られると今度はそのリーチが邪魔になるので、懐にはいる接近戦での戦い方がこれからの課題だと思っています。今現在やっているのは押してける。お互いけれない距離に入ってしっかり自分の空間を開けてける。瞬間的に押してけるか自分が少しさがりながらける。」

これが、大柄な選手への対抗策。
でも、そのためにはまず相手との距離を詰めなければいけない。
そこで今、習得中のあるテクニックが相手にあえて蹴りを打たせて、それを払うことで接近するテクニック。さらに、相手のカットをカットで潰して懐に入るテクニック。道場での練習相手は自分より大きな男子選手。外国人選手をイメージし、その感覚を体に覚え込ませていく。

東京で狙うはメダル。
1月の大会、太田選手のある長所に岡本さんは気付いていた。

岡本「最後まで動けてたと思うんですよ。もし体力がなかった場合、この3ラウンドで見ててもわかるぐらいに差が出てくるんで、3ラウンド目がやっぱり勝敗を左右する。」

落ちない体力の裏には、あるトレーニングがあった。
北区にあるナショナルトレーニングセンター。週2回、太田選手はここで自らのストロングポイントを磨き上げていた。
60キロのバーベルを使ったスクワット。
すると直後に始めたのは、蹴りの練習。
人の体は疲れていると必要最低限の筋肉しか使わなくなる。あえて体を極限状態に追い込むことで無駄な力が入らず、疲れにくい蹴り方を体に覚えて込ませているんだそう。
これが、3ラウンド目でも鋭さが落ちない蹴りにつながっていた。
さらに、蹴りに必要な筋肉を意識的に鍛えることで鋭さに磨きをかける。

パラテコンドーの魅力を多くの人に伝えるためにも狙うは、パラリンピックでのメダル獲得。

太田「結果を残すことでたくさんの人に知っていただけると思うのでNO.1って楽しいという気持ちを大切にメダル争いにからめるように頑張ります。」

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