放送内容
放送内容
2019年12月22日
水泳、西田杏。
バタフライの日本記録を2つ、アジア記録を1つ持つ日本パラ水泳界の若きヒロイン。
50mバタフライの世界9位にランクしている彼女には誰にも負けない武器がある。
「推進力を生む左脚」
スタート直後、左脚一本でのドルフィンキックでぐんぐん進む・
この自慢の左脚が彼女のストロングポイント。
来年に迫った東京パラリンピック、夢舞台でメダルを狙う西田杏の挑戦を追った。
この日、西田選手が向かった先はプールではなく、都内にあるスポーツ施設。
今年の3月まで在籍していた母校、東京学芸大学の水泳部と一緒に練習している。
週に6日、みっちり泳ぎ込みをおこなっている西田選手は生まれたときから、右脚と左腕が短いという障がいがある。
物心ついた頃から義足をつけての生活。
西田選手が本格的に水泳を始めたのは、小学3年生のとき。
西田「私もみんなと同じように泳ぎたいなって思って水泳を始めました」
体を動かすのが大好きで、中学では水泳と卓球をやっていた西田選手。高校に入学してから、水泳一本に専念するように。
パラリンピックを意識したのは、高校1年の終わり頃。部活とは別に、同じプールで練習していた、ある選手との出会いがきっかけだった。
北京パラリンピックで金メダル、ロンドンで銅メダルを獲得した鈴木孝幸選手。同じく、手と脚に障がいがあるパラスイマー。
西田「お話とかも聞いてかっこいいなと思って、自分も(パラリンピックを)めざしたいと思うようになりました」
すると17歳で出場したアジアのユース大会で優勝。世界を強く意識するように。
西田「初めて出た日本代表の試合でメダルを取ったということがすごくうれしくて、次もっといい記録を出せるように頑張ろうという思いが生まれました」
今年9月に行われたジャパンパラ水泳競技大会では得意とする50mバタフライで自己ベストを更新。さらに進化している。
西田選手の、推進力を生む左脚はどのようにして生まれたのか?
左脚の強さが分かるのが、こちらの練習風景。
日常生活では義足をつけているが、トレーニングではこの通り左脚一本で行う。
岸本コーチ「OK。レスト。これもずっと1本足でバランス崩さずに立ってること自体すごいと思いますね、負荷をかけながら起き上がって。普通だったらグラグラなるんですけど彼女はこのあたりは安定しているのでそういった強さもこういうところから出てますよね」
その強さは水中の動きを見ても、明らか。左脚一本で、豪快なドルフィンキック。ぐんぐん進んでいく。
左脚の強さの秘密について西田選手は。
西田「私の体の中では左脚がいちばん筋力が強く、それは幼少期からの生活
とかにあったんですけど。義足ってどうしても暑くて蒸れるんで邪魔になるこ
とが多く保育園とかは本当にケンケンとかでみんなと一緒に走り回ったりして。
自然とついてしまった筋肉っていう」
現在も、トレーニングでは義足を外し、片脚で移動。これが西田選手の中では、当たり前。
小さい頃から鍛えあげた自慢の左脚。
この左脚から生み出される強いキックを武器に西田選手は大学に入ってからも、出場する大会で常に結果を出してきた。
大学1年の日本選手権では、3種目で大会新記録を出し優勝。夢だったパラリンピック出場が現実味を帯びてきた。
中でも、1番速いタイムが出ていたバタフライに専念。翌年に控えたリオパラリンピックに向け、必死に泳ぎ込みを行った。
そして万全の準備をして挑んだ、リオパラリンピックの選考会。西田選手は安定した泳ぎで、優勝。しかし、派遣記録に届かず、パラリンピック出場は叶わなかった。
西田「悔しいという思いと、あと何してるんだろうという思いが。まぁ半年以上ひきずってます。もっとやれることが沢山あったなって思って。この身長でもしっかり戦えるぐらいの体作りがまだできていない部分があったのでそこを4年間で改善していこうと思いました」
東京パラリンピック出場をめざし、再スタートを切った西田選手。
しかし去年、大きな壁に悩まされた。
腕に障がいがある選手の場合、それまでバタフライは片腕での泳法も認められたのがルール改正で、片腕の泳法が禁止に。
以来、両腕を使った泳法に変更することになったのですが、このルール改正は西田選手にとって不利なものだった。
西田「左手の筋力がすごく弱いので、片手の方が速く効率よく進めていました」
生まれた時から左腕は筋力が弱いので、動かすには、よりパワーが必要になる。右腕だけなら速く動かせるのに、両腕を同じペースで動かさなくてはならない為、泳ぎもぎこちなくなり、両腕を使った泳法に、なかなか順応出来なかった。
目標のタイムは、東京パラリンピックの参加標準記録、40秒25。
まずはこれを突破しなければ、世界と戦えない。
西田選手は、トップアスリートの体づくりとメンテナンスを指導する、プロのトレーナーの元へ通った。そこで左腕の筋力を強化。両腕を使った泳ぎで戦うための体作りをすることに。
森川トレーナー「動かして行くっていう筋肉の使い方に変えていかなきゃいけないので手足をつなげている体幹の部分はかなりぶれてくるので、ここはもっと強くしないと」
新しい泳法に対応するための体幹づくりにも力を入れた。
そして今年3月の大会。
得意の50mバタフライで、東京パラリンピック派遣標準記録を突破。
コーチを務める岸本さんは、西田選手の泳ぎの変化について、こう分析。
岸本コーチ「結構、水面をすべるように手も脚も連動してスムーズに泳いでいる印象ですね」
日々進化する西田選手。
東京パラリンピックに向け、水中での無駄のない動きを追い求めている。
その為に取り出したのはシュノーケル。
岸本「呼吸のために顔をこうやって、いちいち上げなくていいので。余計な動作をなくすために」
理想のフォームを体で覚えるためのトレーニング。上体を起こしすぎず、下に突っ込みすぎない高さをキープ。足も曲げすぎないよう意識。理想のフォームに近づくため練習を繰り返す。
そして陸上でのトレーニングも強化。
推進力をうむ左脚のキックをさらに進化させなくては世界とは戦えない。
水中で無駄のない姿勢をキープするために体幹を鍛えている。
トレーニングの成果が試される、9月のジャパンパラ水泳競技大会。
ルール改正の壁に伸び悩んだ時期を克服すべく、日々取り組んできた西田選手。
両腕を使った泳ぎは、果たしてどれだけ進化したのか?
勢いよく飛び出した、西田選手。スタートから力強い泳ぎを見せる。
目標は3月に記録した39秒59を超えること。タイムを縮めることで、来年の東京パラリンピックがまた一歩近づくという、重大なレース。
みごと1着。気になるタイムは?
自己ベストを1秒近く縮め、日本新記録。世界ランキングも9位につける好タイム。
来年の東京パラリンピックに向けて進化を続ける西田選手。
夢の実現へ、次なる課題は?
西田「キック力の強化。私のこの脚をもっと活かせるようにしたキックを打つこと、前半出したスピードを後半どこまで維持できるかがすごい大切になってくるので」
自慢の左脚を鍛え、泳ぎに磨きをかける西田選手、東京パラリンピックでの目標は?
西田「メダルを取りたいという目標を設定しています。今の目標を維持したまま、その練習に取り組んでしっかり結果を残せればなと思います」