放送内容
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2020年2月16日
東京で一番輝くメダルを掴むため、異国の地アメリカで戦いの日々を過ごしている。
全盲のスイマー・木村敬一。
去年9月の世界選手権で頂点に立ち、東京パラリンピック代表に内定。
金メダルが期待される日本パラ水泳界のエース。
そんな彼にはだれにも負けない武器がある。
「スタートダッシュが生むパワフルな泳ぎ」
持ち前のキック力で勢いよくロケットスタート。
このスタートダッシュで世界のスイマーたちを圧倒してきた木村選手だが、これまで、パラリンピックの金メダルはゼロ。
4年前のリオ大会でつきつけられた課題。それが後半の50mの弱さ。
課題克服へ、アメリカでスタートした武者修行。
今回は、アメリカ生活に密着。
金メダルを追い求める、29歳・木村敬一を追った。
アメリカ東海岸に位置するボルチモア。
アメリカで最も古い都市の1つで合衆国国歌や星条旗が生まれた街としても知られている。
港から車でおよそ15分の場所にある、ロヨラ大学。敷地内のプールに、木村選手の姿があった。
1990年、滋賀県に生まれた木村選手。
2歳の時、先天性の疾患が原因で、両目の視力を失った。母のすすめで、水泳教室に通い始めたのは、10歳の時。
木村「水泳を見たことがないし、どうやって泳ぐか全く知らなかった。先生が一緒にプールに入ってくれて、文字通り手取り足取り一つずつ動きを教えてくれた」
水泳の楽しさにのめり込んだ木村選手はメキメキ成長。
18歳でパラリンピック初出場を果たした。
しかし、前回のリオ大会。
世界ランク1位で挑んだ100mバタフライ。武器のスタートダッシュで前半を1位で折り返すも、後半に失速し、無念の銀メダル。
木村「リオまでの4年間はすごく自分の中でも頑張ったと思うし、それでも(金メダルに)届かなかったと思うと今まで以上のことをやらないといけないわけであって、そのなかで考えたのが海外での練習。僕が連絡をFacebookでとることができたのはこのボルチモアを紹介してくれたスナイダー選手だった」
リオで、金メダルを争ったスナイダー選手。
パラリンピックの金メダルを5つ持つ、全盲クラスの最強スイマー。
スナイダー「ケイイチが『僕の夢は母国開催の大会で金メダルをとることだ』と言った時、なんて素晴らしい夢だと思いぜひ応援したいと思いました。私はブライアンのもとで飛躍的に成長しましたからね」
2年前から、スナイダー選手を金メダリストに育てたブライアンコーチの元、トレーニングに励む木村選手。夢の実現へ半年後に迫った東京での戦いについてブライアンコーチに聞くと
ブライアンコーチ「金メダルを取るには世界記録を出す必要があるでしょう」
世界記録で金メダル、そのために力を入れていたのは、リオで露呈したスタミナ強化。
「パワータワー」と呼ばれる器具。
腰にロープをつけて泳ぎ、水を入れたバケツを引き上げるこのトレーニング。体に大きな負荷がかかり、心肺機能と筋力を高める。ブライアンコーチが容赦なく水を足し、最終的にはトータル20キロ。
木村「今までよりも後半体が動いてるなとか、練習に対する熱量が100%以上でぶつかれているから成果が出ている」
練習の成果が表れるのは、拠点をアメリカに移してわずか5か月後の大会。
木村選手は、100mバタフライでレース後半の粘りを発揮。自己ベストを更新するアジア新記録をマーク。進化を証明して見せた。
去年3月の記録会で、さらにタイムを更新し、世界記録まで100分の5秒にまで迫っている。
密着取材、続いて向かったのは、ある人の元・・・。
木村「僕がアメリカでトレーニングするのを紹介してくれたので、すごく気にかけてくれてもいますし、楽しみですね会えるのは」
そう、金メダルを争ったライバルであり、親友のスナイダー選手。
自宅に到着。
話は、お互いの国について。
木村「アメリカの人たちはみんな優しいです。例えば食堂にいたり、道を歩いていてもみんな助けが必要かどうか、調子はどうかいつも話しかけてくれます」
スナイダー「若い時はサムライ映画をよく見ましたし、日本文化に憧れを持っています。僕は宮本武蔵が書いた五輪書について勉強し、(アカデミーで)東国の哲学や仏教について教えています。何度か日本を訪れる機会がありトライアスロンで横浜にも行きました」
実は、スナイダー選手現在、トライアスロンにも挑戦。横浜での国際大会で銅メダルを獲得。水泳は50mに絞り、トライアスロンと2種目で東京を目指している。
木村「彼は次のステージを上がる段階でそれがトライアスロンです。正直嫉妬しています。50m自由形で対戦出来るのが楽しみです」
今や英語もペラペラの木村選手。
2年前の渡米当時はほとんど話せなかったそう。
木村「最低限コーチとコミュニケーションをとらないといけないと思っていた。語学学校に通っていてそこで授業を受けてました」
水泳も英語もできて、弱点は?
木村「寂しがり屋なことと、敷かれたレールの上はちゃんと走るタイプですけど、よっぽどのことがないと違う変化は出さない」
寂しがり屋な木村選手が、自らアメリカでの単身武者修行に踏み切ったのは、まさに大きな変化。
金メダルにかける強い思いがうかがえる。
訪れたのは、週3で通うトレーニングジム。
スナイダー選手を金メダリストに育てたトニーさんに指導を受けている。
やっていたのは、「ハイ・インテンシティー・インターバル・トレーニング」。負荷の高い激しい運動と、負荷がそれほど高くない運動を交互に行い、短時間で心肺機能と筋力を同時に鍛える。
木村「止まらずにどんどん行くんで心肺機能がすごく苦しいですね、でも僕の弱さでもあったので持久的なところが、僕に足りていないところを鍛えてくれているなと思います。」
その効果は「スタミナ面」だけではない。
トニー「下半身と上半身を鍛えたので、キックが強くなったし、泳ぎも力強くなりました。コースロープにぶつかるとスピードが落ちてしまいがちですが、彼は勢いを維持できます。」
全盲のため、硬いコースロープに手をぶつけながら泳ぐことで、真っ直ぐ泳いでいる木村選手。
このウエートトレーニングが、課題のスタミナ面に加え、コースロープに衝突してもパワーにつながっていた。
去年8月、開幕1年前イベントに登場した木村選手。
木村「これまでのパラリンピックで獲得できていない金メダルというものを取るために今トレーニングに励んでいるところです。(アメリカでは)常に練習の雰囲気が前向きで明るい雰囲気の中で練習できている。今はどんなことが起きても基本的に前向きに動じないメンタルが作り上げられていると思う。」
アメリカでの武者修行で、肉体的な進化はもちろん、仲間から刺激を受け、メンタル面も大きく成長したんだそう。
それは記録にも表れており、2018年の渡米後、なんと5種目で合計6度の自己ベストを更新。初のパラリンピック金メダルへと突き進む木村選手に東京では「ある追い風」が。
木村「リオは毎日レースやっていたんですけど、東京はお休みの日がちょこちょこあるのでもうちょっとラクになると思う。バタフライが3レース目でMAXの状態で戦えなかったというのが敗因でしたね」
東京を100%で迎えるとして、いま現在何パーセントなのか?
木村「85%ぐらい。トレーニングは順調ですし、あとはベストな状態で迎えられればいいと思っています。来年のパラリンピックでは今までに取っていない金メダルをとれるようにしっかり頑張りたいと思います!」