2019年9月29日
車いすテニス、国枝慎吾。
シングルスではパラリンピックで金メダル2回。
テニス界の最高峰・グランドスラムで優勝22回と驚異の成績を残してきた。
彼には誰にも負けない武器がある。
「全てを支えるチェアワーク」
世界一とも称される絶対的な武器でチャンピオンロードを独走してきた。
しかし…右ひじのケガで王座から転落。
そこから、這い上がった王者の意地。
かつての絶対王者が挑むTOKYO2020への戦い。
復活のために…決断した2つの変化とは?
新たな伝説を築き始めた、NEW国枝慎吾に迫る。
8月、千葉県。
去年のアジアパラで優勝し、女子の上地選手と共に東京パラリンピック出場が内定。
9歳の時、脊髄腫瘍で車いす生活になった国枝選手。
競技を始めたのは11歳の時、お母さんの勧めがきっかけだった。
持ち前の運動神経でめきめき頭角を現すと、2004年、アテネ大会でパラリンピック初出場を果たし、ダブルスで金メダル。さらに、北京で悲願のシングルス金メダルを果たすとロンドンでは連覇を達成した。
そして、車いすテニスの最高峰、グランドスラムではなんと22勝。パラスポーツを代表するスター選手に昇りつめた。
ちなみに、健常者のテニスではロジャー・フェデラーの20勝が最高。
まさに史上最強のテニスプレーヤー。
そんな圧倒的な強さを誇る彼のストロングポイント、「全てを支えるチェアワーク」。
世界が認めるチェアワーク。
試合では、その武器を生かして素早く打点に入り、正確なショットにつなげている。自慢のチェアワークにショットを絡めた国枝選手の高度なテニス。
そんな、ストロングポイントを武器にパラリンピック、シングルスで2大会連続の金メダルを獲得した国枝選手。
しかし、3大会連続を期待された2016年、肘の不安を抱えながらパラリンピックシングルス3連覇を目指したが、結果はまさかの準々決勝敗退。
あれから3年、当時を振り返って頂くと。
国枝「苦しさしかなかったですね。だからリオのビデオとかっていうのは、リオが終わってから1度も見ていないですね。それぐらい楽しさが1ミリもなく、苦しいだけの日々だったので、きっと僕も自然とそこに封をしてしまったかなっていうふうに今は思いますけど。」
国枝「(引退について)もう何回も考えましたね。やっぱり、痛みを抱えて、本当に毎回ボールがラケットに当たる瞬間を怖がってまでテニスをするのは非常につらいものがあるので、この状況が続くんであればちょっと東京まではまずないだろうなっていうふうには何度も頭をよぎりましたね。どちらかというと僕自身がリオという舞台はケガに泣いたというのがあるので、その中でイギリスの選手が上がってきたりだとかジェラールだとか若い選手がどんどん出てきてですね、僕の中ではそいつらに負けたとは思っていなかった。自分自身のケガに負けたなという気持ちがすごく強かったので、何とかケガはない状態で、今、頂点にいる選手たちに戦いを挑んで、『決してお前らに劣っているわけじゃないぞ』というのを証明したかったっていうのが強かったですね。どちらかというとそれが全てでした。東京というよりは、自分自身の力を証明したかったという気持ちでいっぱいでしたよね。」
今年、再び世界のトップに帰ってきたのは進化を遂げた、NEW国枝慎吾だった。
その進化をひも解く2つのキーワード。
一つ目は「バックハンド」。
不振の要因となっていた右肘の痛み。
復活には肘に負担のかからないバックハンドが何としても必要だった。
そこで国枝選手が変えたのは“グリップの握り方”。
国枝「昔の方が手打ち気味だった。ちょっと手首を背屈することで、この筋肉が収縮するじゃないですか。結局、これはテニスエルボーには繋がるんですよね。この状態で何回もインパクトしているとどうしてもこの筋肉が疲れてきて、腱に負担がかかってくるので、それをやめた。」
変更後は手首をフラットに。ラケット面は地面に対し平行に近くなった。
ラケット面の角度を調整するために腕の振り方も大きく変わった。
以前は手首を反らせていたのが肘を上げることで角度をつけるようになった。
長年、苦しめられた肘の痛みから解放され、国枝選手は全力のプレーを取り戻した。
国枝選手の進化、2つ目は「コーチ」。
去年4月、国枝選手は17歳から長年連れ添った丸山コーチとのタッグを解消した。
新たな自分と出会うため、迎え入れたのが岩見たすくコーチ。
健常者テニスの全日本選手権でダブルス優勝を飾った実力者。
そんな2人が今、精力的に取り組んでいるのがネットプレー
国枝「基本的には全体的にネットに出る回数なんかは増えていると思います。
そこの練習っていうのも岩見さん元々ダブルスめちゃくちゃうまかった選手で
ですね。ネットがすごく得意な選手だったので、本当にアドバイスを頂きなが
ら、じゃあ、どういった場面で出るのか、どういった場面で出ないのかってい
うのを明確に教えて頂いているので、そこはすごく効果出ているんだと思いま
すね。」
そんなNEW国枝慎吾の強さが出たのが今年4月のジャパンオープン。
準々決勝、相手はリオ大会シングルス金メダルのリード選手。
国枝選手は持ち前のチェアワークを生かしたストロークに加え、積極的なネットプレーを見せる。
その後の試合でも課題のネットプレーが要所で決まり、試合の主導権を譲らない。さらに、改良したバックハンドも完璧に打ち切る。
日本(にっぽん)のファンに完全復活を印象付けた国枝選手。
しかし、その表情に余裕は一切ない。
2020年東京でのメダル争いはパラリンピック史上稀にみる激戦が予想される。
国枝「みんなにチャンスがあると思いますね。トップ10ぐらいまでは、みんなメダルのチャンスくらいあるんじゃないですかね。」
世界のトップ10、中でも注目は。
アルゼンチンのフェルナンデス選手。今年はグランドスラムで連勝を重ねるなど、絶好調。国枝選手がいま最も警戒する選手。
さらに、リオパラリンピックで躍進したイギリスのリード選手とヒューイット選手。
そして、国枝選手の長年のライバル。車いす界の鉄人、フランスのウデ選手も健在。熾烈な戦いにより競技レベルもドンドン上昇している。
ちなみに、ロンドンで金メダルをとった時の国枝選手は今の世界ランキングでいうと?
国枝「あの時の僕のレベルは今の世界10位ぐらいだったりすると思いますし、ロンドンから今、7年の間に車いすテニスのレベルがガラッと変わっていると思うんですよ。間違いなく、みんなが成長していると思います。」
絶対王者が2020年にかける思いとは?
国枝「ようやく1年前になって、カウントダウンを僕の中でし始めたなっていうところですね。あと1年かと。それまでは全く東京に対しては、全くというか延長線上ではありましたね。グランドスラムを戦っていく中で。それが今、1年前と言われてですね、そこからの逆算に少しずつ変化している気はしますね。」
輝かしい競技人生、そのゴールとは?
国枝「東京での金メダルは1番大きな目標ではありますし、あとは僕はウィンブルドンは獲っていないので、ウィンブルドンのタイトルは本当に欲しいですね。すべてが揃った時にあとはどう思うかですね僕自身が」