放送内容

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第210回 車いすテニス 上地結衣⑤

2020年4月5日

車いすテニス、上地結衣。
4年前のリオパラリンピック。
女子車いすテニスで日本人初の銅メダル。
さらに、一昨年、全種目通じて、東京パラリンピック内定第一号に。
そんな彼女には、誰にも負けない武器がある…

「試合をコントロールする力」

正確無比なショットで相手を翻弄し、自分が優位な展開へと持ち込む。
20歳の若さで世界ランク1位に輝いた。
そして、今年最初の四大大会、全豪オープンでは3大会ぶりの優勝。
東京での金メダルへ、順調なスタートを切った。
しかし、その2週間前…
彼女は、もがき苦しんでいた…
2020年初戦で直面した新たな課題とは?
歓喜の裏に隠された、知られざる苦悩。
その戦いに密着した。

1月。
夏真っ盛りのオーストラリア。
世界中から多くの観光客が訪れるリゾート、ゴールドコーストに上地選手はいた。
和やかな雰囲気で一緒に練習しているのは、イギリスのジョーダン・ワイリー選手。
2014年、2人はダブルスを組み、1年間で四大大会すべてを制覇する「年間グランドスラム」を達成。互いに実力を認めあう仲。

1994年、兵庫県生まれ。
先天的な脊椎の病で下半身に障害がある。
車いすテニスを始めたのは11歳のころ。
そこからめきめきと実力を伸ばし、わずか15歳で日本代表に。
その5年後には、日本の女子車いすテニス界初となる世界ランク1位。
さらにリオパラリンピックでも女子シングルスで日本女子初の銅メダルに輝いた。
東京では金メダル最有力。
そんな上地選手のストロングポイントは…「試合をコントロールする力」。
身長143cmと小柄な体格で世界のパワーやスピードに対抗するため、磨いてきたのが…

上地「相手の嫌がるテニスというか、パワーだけじゃない、技術とか精度というところで、いろんなことを考えるっていう技術を身につけて海外の選手にも勝てるようになってきたので」

強さの秘密は徹底した分析。
コーチの千川さんと一緒に、相手の特徴や性格までも考慮して戦い方を考える。
また、試合で気づいたことはすぐにメモ。実戦でしか得られない感覚を文字にすることで、今後の対策にもつなげていく。
積み重ねた分析と経験を武器に試合ではショットの種類やコースを巧みに変えながら、相手を翻弄。多くの勝利をつかんできた。
さらに去年からはノーバウンドのボールをストロークと同じスイングで打つ『ドライブボレー』も覚え、積極的に前へ出る戦術も増えた。
東京での金メダルへ向け、更なる進化を目指す上地選手。
その試金石となる、2020年初戦。
1月、オーストラリア。
車いすテニスの四大大会に次ぐスーパーシリーズ「ツイードヘッズ車いすテニス選手権」。2週間後に開催される全豪オープンを見据え、世界のトップ選手が集う。

車いすテニスはコートの広さやネットの高さなど基本的なルールは健常者のテニスと同じ。大きく異なるのは2バウンドまでの返球が許されている点。
いよいよ初戦。
第1シードの上地選手は2回戦から登場。
相手はいきなりリオの金メダリスト、オランダのジェシカ・グリフィオン選手。強敵をストレートで破り、順調に勝ち上がった上地選手だが試合後…。

上地「全部、半分遅れぐらいで合ってくる。風下で合わんくて合わせていって、良くなってきたらもう風上いかなあかんみたいな感じで、全部半分ずつズレとったから」

上地選手が気にしていたのは…風。
ビーチリゾートでもあるゴールドコーストは海からの強風が試合に影響を及ぼすことも。
翌日。その不安が現実のものに。
準々決勝を前に練習をしていると…どこか表情がさえない。

上地「風上・風下っていうのがはっきりしている。
その時によってやるべきことが変わってくると思うので、そこがうまく分けられて対応できたらいいんですけど、なかなかやっぱり難しいですね」

技術と精度で勝負をする上地選手のプレーはパワーで攻める選手より風の影響を大きく受けてしまう。
準々決勝の相手はパワーで押してくる南アフリカのクオザード・モンジェーヌ選手。
風の影響からか、上地選手、思うようなショットが打てない。
強く吹き始めた風により得意のショットが安定せず、相手のパワーショットに押されていく。
そしてファイナルゲーム。
ゲームカウント5対4でモンジェーヌ選手がリード。相手にマッチポイントを握られてしまう。
2020年の大事な初戦、ここで負けるわけにはいかない。
意地の3連続ポイントでデュースに持ち込むと、3度のデュースを制し、このゲームを取り返した上地選手。
ここで戦い方に変化が、風の影響をより受けていたバックハンドをチェアワークでカバー。フォアハンド側に回り込み得点を重ねる。
相手にマッチポイントを握られてから3ゲームを連取。

この勝利に上地選手は…

上地「最後の最後にちょっとスイッチ入ったぐらいで、全然あかん、今日何打っても入らへんと思って」

本調子からは程遠いようで試合後にも関わらず、その姿はコートに…
ここから1時間以上、ボールを打ち続けた。
翌日の準決勝。
相手は日本の大谷桃子選手。高校時代は健常者のインターハイに出場。
病気の治療で手足に障がいが残り、2016年、車いすテニスに転向すると…わずか4年で世界のトップテン入り。日本女子期待の新星。
それでも上地選手は2007年以降、国際大会で一度も日本人に負けていない。
その立ち上がり。
大谷選手が得意とする強いサーブに押しこまれ、第1セットを奪われてしまう。
第2セット。
この日も風の影響でなかなかショットが安定しない。
そんな状況下でも、試合をコントロールする力は健在。
世界のトップで戦い続ける豊富な経験を活かし、高いロブをきっかけにテンポを変えると…今度は一転、前へ出て素早い攻撃。風の影響を受けながらも臨機応変にショットを変え、大谷選手のリズムを狂わせる。
そして、第2セットを奪い返してセットカウント1対1。この流れに乗り、つづく最終セットもゲームカウント2対0と上地選手がリード。
しかしここで、突然の大雨。
試合は翌日へ持ち越しとなった。
翌日。
第3セットの続きから再開。
試合は、前日の勢いそのままにリードを拡げた上地選手が勝利。決勝へ進出。
ところが、前日の雨の影響でタイトなスケジュールに。
決勝はわずか1時間半後。
相手は世界ランキング5位、イギリスのワイリー選手。
序盤はパワーのあるワイリー選手に押され、リードを許す。しかし、これまでの2試合と比べ、この日は風も少し穏やか。上地選手のプレーも少しずつ本来の調子が出はじめる。
緩急をつけたプレーで相手の気持ちを揺さぶると、苦しんだ末にみごと優勝。
この後行われたダブルスも制し、2冠を達成したが、上地選手は納得していない様子。

上地「勝つこと自体はすごく大事だと思うんですけど、次の段階としてどういう風に勝つかということが重要だと思います」

大会を振り返り、自身の評価は…

上地「40点くらいですかね。自分のテニスの内容とか自分がやろうとしてできなかったっていうところをみるともっと低い。やっぱり全豪があるので。
もちろん勝ちたいって気持ちはありますけど今ここで勝ち負けがどうっていうよりかは、今たくさん失敗していい時期だと思うので、失敗を恐れずにどんどんトライしていきたい」

そのおよそ2週間後に行われた全豪オープン。
試合会場のメルボルンも風の強い場所ですが、この短期間で、オーストラリアの風を攻略した上地選手。
2週間前、苦戦を強いられたワイリー選手とモンジェーヌ選手に見事ストレート勝ちを収めると。
迎えた決勝。
相手はオランダのアニーク・ファンクート選手。
実はオランダはパラリンピック過去7大会すべてで金メダルを獲得している最強軍団。ファンクート選手もリオのシングルスで銀・ダブルスで金に輝いた強敵。
それでも、上地選手は正確なショットを駆使し、完全に試合をコントロール。
そして、3大会ぶりの全豪オープン制覇。
2週間前には見えなかった満面の笑顔。
2020年、最高のスタートを切った。
実は上地選手がオーストラリアでの取材中に、ある決意を語ってくれていた。ダブルスで年間グランドスラムをともに達成した盟友ワイリー選手との食事中、上地選手の口から、東京への思いが…

上地「東京のパラリンピックの時は2人でそのオランダのメダルを獲得してきた歴史をつぶしてやろうっていう風に言っていたのでそれが本当に現実になるといいな。
2人で決勝に戦うことができたらすごく嬉しいなって思います」

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