放送内容
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第184回 車いす陸上 鈴木朋樹

2019年9月22日

車いす陸上、鈴木朋樹。
国内でも数少ない「オールラウンダー」。
短距離と中距離、それぞれの種目で日本記録を持つ。
今年行われたロンドンマラソンでは3位入賞。いち早く、東京パラリンピック出場権を内定。日々、成長を遂げる姿にメダルへの大きな期待がかかる。そんな彼には誰にも負けない武器がある。
「一気に相手を追い抜くスプリント力」
スタートから、またたく間にトップスピードへ。
この爆発的なスプリント力こそが、世界を相手に戦う鈴木のストロングポイント。そのヒミツは…速さを生み出す驚異の「ピッチ」。
新たなトレーニングでさらなる高みへ…
速さへの飽くなき探究心。
進化し続ける鈴木の挑戦を追った。

千葉県館山市で生まれた鈴木選手。
生後8か月で交通事故にあい、物心ついた頃には 車いすの生活に。
そして小学3年生の時。これまで移動手段として慣れ親しんだ車いすに「競技用」があることを知った。

 

鈴木「競技用の車にのることでスピード感の違いというか、今までランニング程度で走っていたものが自転車とか車になって風を切って走るってところは味わえたかなと思います」

 

競技をはじめた鈴木選手にイチから基礎を教えたのが花岡伸和さん。
車いすマラソンでパラリンピックに2度出場したトップアスリート。
大学卒業まで花岡さんの指導を受けると、才能が一気に開花。去年、400メートルと800メートルで日本記録を更新。車いす陸上界のトップ選手へと成長を遂げた。
鈴木選手が出場するのは、T54クラス。
腕は正常に機能し、体幹もある程度コントロール可能な車いす陸上の中でも選手層が特に厚いと言われるクラス。車いすは「レーサー」と呼ばれる直進性に優れた車いす。そこへ正座するように座り、ゴム製のグローブで車輪横の「ハンドリム」というリングを回す。
前輪と後輪の間にある「トラックレバー」と呼ばれるパーツ。カーブでは、これを叩くようにして前輪の向きをかえる。
10年以上にわたり、鈴木選手を指導してきた花岡さん。その強さの理由を、こう話す。

 

花岡コーチ「トップスピードまでいかに短時間であげられるかとそのトップスピードの値がいかに高いかっていうのが、車いすの勝敗をわけるのには一番大事なところですね。日本でそこまでスプリント力もってて、中距離走れる選手は今までいなかったですね」

 

スタートと同時に、一気に加速。またたく間にトップスピードへと到達する。
爆発的なスプリント力こそが、鈴木選手のストロングポイント。日々の練習では、この武器にさらなる磨きをかけるため、あるトレーニングを欠かさない。
停止した状態から一気に加速する…「ゼロスタート」。

 

鈴木「スタートしたすぐの段階はタイヤが回っていない状態から回さないといけないので、なるべく手の数を多くしてタイヤをうまく転がすようにしているイメージですかね」

 

スタート時、短く速く漕ぐことでタイヤの回転数を上げ…速度が出てきたところでは長く後ろまで漕いでトップスピードを維持。圧倒的なスプリント力の裏にはスピードによって漕ぎ方を変える高度な技術が隠されていた。

 

花岡コーチ「子どものころから車いすにのってると自然と車いすを扱うのに適した体になってくんですよ。たとえばレース用の車いすに乗っても足はそんなに使わないので軽いほうがいいんですよね。車でいうと軽い車体に大きなエンジン積んでるようなものですから」

 

練習ではもうひとつ、意識的に強化していることが。
加速してトップスピードへもっていくタイミング。

 

鈴木「一周目からある程度の高さのスピードをキープして、さらにそこからあげるっていうような、シチュエーションを再現してやっています」

 

こうして、類まれなスプリント力を手にした鈴木選手。
自身を大きく変えるきっかけとなったのが…大学3年生の時。
ある挫折がきっかけだった。

 

鈴木「リオのパラリンピックに自分が出場できなかったというのがすごい悔しいポイントでもありますし、競技のトレーニングを180度変えようと思ったきっかけになると思います」

 

これまで得意としていた800メートルと1500メートルだけでなく、スプリント力を磨くため、短距離の400メートルにも挑戦。
すると、その効果は数字としても表れ、ここ2年で最高速度が時速35キロから2キロもアップ。国内トップクラスのスプリント力を手に入れた。 そんな鈴木選手には、目標としている選手がいる。

 

鈴木「スイスのマルセル・フグ選手という選手が憧れの存在ですし、やはりそういう選手みたいになりたいと思っています」

 

リオパラリンピックでは車いすマラソンで金メダル。
さらに、世界6大マラソンすべてを制覇した、まさに…生きる伝説。
来年の東京でも金メダル最有力の選手。
フグ選手の背中を追い、長距離でも世界を目指す鈴木選手。去年の東京マラソンでは2位と結果を残した。
今年行われたロンドンマラソンではフグ選手に続いて3位入賞。東京パラリンピックにいち早く内定した。では…短距離で培ったスプリント力はマラソンなどの長距離でどのように生かされているのか? 

 

花岡コーチ「世界的にみても短距離強い選手が距離を伸ばしてフルマラソンやるほうが勝てるんですよね。同じペースでタイムで刻んでいける選手よりも今はゴール前後ろからすっとさしにいけるような選手でないと頭をとるのは難しいかなという状況ですから」

 

42.195キロをわずか1時間20分台で駆け抜ける車いすマラソン。風の影響も大きく、他の選手のうしろへ回り体力を温存し、機を見て一気にスパート。そのスプリント力が勝敗を大きく分けると言う。

 

7月、町田で行われた関東パラ陸上競技選手権大会。
しかし、この日はあいにくの天気。
鈴木選手のストロングポイント「一気に相手を追い抜くスプリント力」、試合で発揮されるのか?
まず出場するのは、日本記録も持っている800メートル。
得意のスタートで一気に先頭に飛び出し、そのまま独走状態で残り400メートル。見事1位でゴール。記録は1分35秒17。

 

鈴木「世界では自分がマックスで走ったとしてもいい位置につけるかつけないかというレベルなので、国内では絶対的に他者を寄せ付けないスタートをしなければ世界では絶対的に通用しないというところで、今回のスタートも望んだ感じですね」

 

続いて1500メートル。
スタートはずいぶん出遅れたようだが、300メートルを超えたところで一気に加速。残り2周。ふたたびスパートをかける。
ゴールまで200メートル。3度目のスパートをかけ、ついにトップに躍り出る。しかし、最後の直線で後続に追い抜かれ…結果は3位。

 

鈴木「何回もアタック仕掛けることができて、自分のやりたいレースができたはできたんですけど、やっぱり1500mの体力がついていないという状況だったので、最後まで持たずに勝ちに行くっていうところまでは難しかったかなと思います。でも、やりたいことができたから、ある程度達成できたんじゃないかなと思います」

 

そして、序盤、前へ出なかったのには、ある理由が。

 

鈴木「今回に関してはなるべく自分からいかないレース展開をやってみたいなと思って、こういうレース展開をやってはいますね。やっぱりスプリントがうまくない選手はスプリントをしかけることで、比較的スピードをあげなきゃいけないことになるので、そこで体力を使い切ってしまって最後までもたなくなるっていう選手もいるので」

 

スプリント力を磨くため、日々トレーニングを重ねる鈴木朋樹選手。
さらなるレベルアップを図り、2年前から始めたトレーニングがあるそう。
体を動かしながら左右のバランス、関節の可動域などをチェック。ゆがみがあれば指摘し、正しい姿勢や動きを意識的にできるようトレーニングしている。
ひざから下に力が入らないという鈴木選手にとって、特に下半身へのアプローチは新しい試みだったそう。
幼いころから車いす生活のため、最初は下半身の使い方がよくわからなかったそうだが、2年間の地道なトレーニングにより、使える筋肉で意識的に動きを補うことができるように。下半身の踏ん張りが効くようになり、チカラを無駄なく車いすに伝えられるようになった。

 

その成果が試されるのは、11月にドバイで行われる世界選手権。

 

鈴木「3か月間かけて調子を上げていこうとしているので、今はまだスタートしたばかりというか、ここからあげていくっていうところになります」

 

極限まで自らを磨き上げ、世界へ。
そしてその先に見据えるのは…

 

鈴木「日頃から応援してくださってるみなさんに生でパラリンピックというものを日本の地でみてもらえるいい機会だと思ってますので、東京でメダルをとるというところが一番目標としているところです」

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