放送内容
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2020年2月2日
パラバドミントン、里見紗李奈。
去年、初出場した世界選手権で見事金メダルを獲得。
シングルス、ダブルスともに世界ランク1位。
東京からの新種目パラバドミントンの金メダル候補。
そんな彼女には誰にも負けない武器がある。
「粘り強いチェアワーク」
前後に揺さぶられながらシャトルにくらいつき、次の展開につなげる。
この「粘り強いチェアワーク」が彼女のストロングポイント。
チェアワークを武器とするニューヒロイン・里見紗李奈。
東京パラリンピックへの挑戦を追った。
去年、世界選手権で優勝したことでいまやメディアから大注目。
里見選手は交通事故で脊髄を損傷。車いす生活となった。
里見「私はWH1という障がいの重いクラスで簡単にいうと体幹がきかないだったりとか、ききにくいとか、腰から下が動かないだとかいう風に理解していただけると分かりやすいと思います」
パラバドミントンは、障がいの重さによって6つのクラスに分けられている。車いすのクラスは2つ。
里見選手は、障がいの重いWH1クラスでプレーしている。
使用するコートの広さには独自のルールが。
健常者のシングルスの場合、コート全体を使ってプレーするのに対し、車いすのクラスでは、反面の限られた狭い範囲を使用。使用する範囲が狭い分、ラリーが続くのも醍醐味。
そんなパラバドミントンの世界女王、里見選手は1998年千葉県に生まれ。
小さい頃は2人の兄の背中を追って遊びまわる活発で負けず嫌いな女の子だった。
そんな彼女がバドミントンを始めたのは、中学時代。
しかし高校3年生の時、交通事故で脊髄を損傷。医者からは「歩けなくなる」と言われた。
里見「あまり両親にも迷惑かけたくなかったんで、両親の前ではあまり泣かずに、一人の時にシクシクしたりしていました」
誰にも会いたくないと、家に引きこもりがちだった里見選手だったが、パラバドミントンのクラブで練習を開始。
ある人との出会いが、里見選手を変えた。
国際大会で優勝経験もある村山浩選手の言葉が、里見選手を勇気づけてくれた。
里見「『世界に行こう』っていうのは、パラリンピックに出ようっていうことなので。2人で一緒に行きたいよねっていう話もしますし。そういう意味ですごく練習に関しては前以上にしっかり取り組むようになったかなとは思います」
競技に打ち込むようになった里見選手は事故から2年後、2018年のアジアパラで銅メダルを獲得。
そして、去年スイスのバーゼルで行われた世界選手権。
決勝で元世界ランキング1位、タイの強豪、スジラット選手と対戦すると。なんとシングルスで金メダル。事故から3年足らずで世界一に上りつめた。
ストイックにどんな球でも食らいつく。この粘り強いチェアワークはどのように生まれたのか?
普段からチェアワークのトレーニングは欠かさない里見選手。
特に意識していることを聞くと。
里見「ほんとに相手がいる想定でやる。ここに打ったらここに返って来そうだなとか。想像しながらやっています」
チェアワークがいかに重要なのか?
北京オリンピック女子ダブルスベスト8の潮田玲子さんに伺った。
去年、実際に車いすに乗って、里見選手と対戦したそう。
潮田 「車輪の動きって前後にはスムーズに動くんですけど、左右に動かすってすごく難しいんですね。例えばフォアの前にドロップを取って次はクロスの前にくるって。こういうVの動きっていうのがすごく難しいと(里見選手は)言ってたんですね。左右にちょっとコースを振られた時に、車いすを切り返している時間がそもそもないので、すごく難しいんだなと感じました」
この難しい車いすのコントロールが、勝敗に大きく影響する。
チェアワークを駆使し、粘り強くラリーを続けることを常に心掛けている。
そして、タイヤには、ある工夫が。
左のタイヤを見ると。手で操作する部分が金属になっている。
一方、右はラケットを持つので、タイヤを持つ力が弱まってしまいます。そのためゴムを貼って、しっかりグリップできるようにしているそう。
粘り強いチェアワークとともに、もう1つの持ち味、多彩なショットも里見選手のプレーには欠かせない。
里見「きついなと思ったらすごく高く返して次に備えたりとか、自分がつなげるようなシャトルを打つ」
高く遠くへ打ち返すのがクリア。滞空時間の長いショットをあえて打ち、体勢を立て直す以外にもクリアには、もう1つの効果が。
里見「一歩うしろに下げたら、すぐ前に落とすのが私はクリアが飛ぶ分それができるので。そういう意味では相手をしっかり振ることができるんじゃないかと思います」
大きくクリアを打ってから、手前のライン、ギリギリに落とすドロップ
この大きなクリアがあるからこそ、ドロップの効果は抜群。
そんな里見選手、東京パラリンピックに向け、ラケットの握り方を改良。
里見「若干、ウエスタン気味だったんですよ。持ち方なんですがフライパン持ちみたいだったのを、ちょっと直したら、振り方がそもそも変わったので。だから、一つパッて変えたら、他が結構いい方向に向いてきたので。そこだけです、私が変えたのは」
ラケットの握り方は、大きく分けると2つ。
イースタングリップとウエスタングリップ。
里見選手は以前までウエスタングリップに近い握りだった。
潮田「ウェスタン気味っていうのは面が相手に、より分かりやすくなってしまうのかなっていうマイナスポイントがあって、相手は何が来るのかなって読みやすくなるんですね。でもイースタンで持つことによって、打つ瞬間まで面が面が見えてこないんですよ。より相手に分かりにくいのかなっていうのがありますね」
去年12月に行われた日本選手権。
里見選手は順当に決勝まで勝ち進んだ。
相手は強敵。過去にこの大会を連覇している福家育美選手
粘り強いチェアワークで食らいつき、得意のクリアショット。さらに、クリアからのスマッシュ。そして、精度の高いコントロールが必要なクリアとドロップのコンビネーション。最後は、ギリギリ手前に落とすドロップショットで日本選手権連覇を達成。
里見「ほんと世界一位である以上、日本一でなければならないプレッシャーというか責任もあったので、そこがしっかりとれてほんとに良かったなあって思ってます」
東京パラリンピックで勝つために、今後、強化していくポイントは?
里見「世界だとすごく低い展開で戦ってくる選手もいるので、その時にチェアが追いつかないと打てなかったりとかほんとさわれないこともあるので、そういうのを減らしたい。さらにチェアワークが良くなったら安定した体勢で打てるのが増える。そういう意味ではチェアワークはずっと課題かなと思います」
ストロングポイントのチェアワークをさらに進化させ、めざすは半年後の東京パラリンピック。
実は里見選手、ダブルスでも活躍が期待されている。
去年11月の国際大会、山崎悠麻選手とのペアで、決勝に進出。
相手は世界選手権を制した中国ペア
東京でメダルを争うライバル相手に試合は白熱の展開。里見選手のスマッシュが決まり、大会連覇。
東京パラリンピックを前にランキング1位の強さを世界に見せつけた。
里見「シングルスもダブルスもしっかり金メダルを狙える位置にはいると思うので、何が何でも金メダルを取りたいなっています」