放送内容
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第174回 車いすバスケットボール 千脇貢②

2019年6月30日

車いすバスケットボール、千脇貢。
世界最高峰、各国の代表クラスが集うドイツリーグで強豪たちと渡り合う千脇の武器、それは…

「パワーで封じ込めるピック」

相手選手の進路を阻み、動きを止め、味方のシュートチャンスを生み出すピック。
これこそが彼のストロングポイント。
自慢の武器でのぼりつめた日本代表。しかし、全試合スタメン出場したリオ以降、遠ざかっている代表の座。日本代表復帰へ…ドイツの地で孤独な戦いを続ける千脇貢の挑戦を追った。

ドイツ北部の港町、ハンブルク。
東西を結ぶ要所として栄えた、ヨーロッパ有数の港湾都市。
この街を本拠地とするのが強豪・BGバスケッツ・ハンブルク。千脇選手の所属クラブ。
同僚の日本代表・藤本怜央選手と共に、チームの主軸を担っている千脇選手。
練習を覗いてみると…。
会話は基本的に英語。ボディランゲージも織り交ぜながらうまくチームに溶け込んでいる千脇選手。
ドイツでのプレーは3シーズン目。

高校まではラグビーに打ち込んでいた千脇選手。
高校2年生の時、スノーボードの事故で脊髄を損傷。下半身不随に。
車いすバスケに出会ったのは22歳の時。
当時はまだ体の線が細かった千脇選手。
それでも自分を変えたいという強い思いから厳しいトレーニングを重ね、世界最高峰のドイツリーグでもフィジカルとパワーはまったくひけをとらない。
鋼のような体を生かした千脇選手の武器、「パワーで封じ込めるピック」。
ピックとは車いすを使って相手ディフェンスをブロックし、味方がフリーでシュートを打てる状況を作り出す連係プレー。
車いすで相手の進路をふさいだり、車輪をぶつけることでピックをかける。
両輪を巧みに使って1人で2人の相手を止められるのも千脇選手の強み。
車いすの横幅を生かした車いすバスケならではのテクニック。

千脇「ピックをかければどんな相手でも止めることができるし、オフェンスが有利になる。車いすバスケッとボールの中で一番最強の武器だと思っている」

このピックを武器に32歳で、日本代表に初選出。
2016年のリオパラリンピックでは全試合にスタメン出場。日本に欠かせない中心選手としてプレーした。
しかし…。
リオ大会を終え東京パラリンピックへ新たなスタートを切った日本代表。
その輪の中に、千脇選手の姿はなかった。
代表はメンバーを刷新し、多くの若手選手を招集。
さらに世界の高さに対応するため、コート全体で攻守の切り替えを素早く行うトランジションバスケに取り組み始めた。常にフルコートでプレーするため、スピードとスタミナが求められるこの戦術。
一方、千脇選手が得意とするのは相手の守備が整った状態から細かいパスやピックでじっくり攻めるハーフコートバスケ。
スピードやスタミナに課題を持つ千脇選手は今の日本代表が目指すバスケとの間にギャップが。

千脇「(代表のトランジションバスケは)展開が早いので、自分にはまだまだついていけない部分はある。(代表のスタイルとの)ギャップは正直ある」

代表復帰へ、千脇選手に求められるプレーとは?
日本代表の指揮官、及川ヘッドコーチに伺うと…

及川「大きな筋肉を持っているだけに、その分エネルギーもいっぱい使うから、持久戦に入った時にどうかという課題はあるが、今の日本代表のバスケットに全然かみ合わないというわけではない。(2020年へ向け)いろんなカードを自分たちで作ってそれを使い分けていくというところが今中心にやっていること。そういう意味では非常に魅力的な選手」

指揮官が口にしたのは期待の言葉。
そんな千脇選手が輝くシチュエーションが、去年8月の世界選手権にあった。
日本はトランジションバスケでイタリアや、ヨーロッパ王者トルコを撃破する快進撃で、2勝1敗。
グループリーグを見事1位で通過し、日本のバスケを世界にアピールした。
しかし迎えた決勝トーナメント。
リオパラリンピック銀メダルのスペインに2点のリードを許し、残り13秒。
守りを固めた相手を崩すことができず惜敗。
トランジションバスケに一定の成果を得つつも、相手の守備が整った状態からの攻撃に課題を残した。

及川「千脇がピックするとヘルプのディフェンスが来なきゃいけないので、どうしてもディフェンスは自分たちの形を崩してローテーションに入らなきゃいけない。そういったメリットは使えるし、崩し方は変わってくる。(千脇は)十分機能する腕を持っている」

代表復帰へ…チャンスはまだある。
この日向かったのは、ドイツの自宅敷地内にあるトレーニングルーム。

千脇「トータルで鍛えている。高負荷の筋トレは車いすのワンプッシュ(ひと漕ぎ)、ツープッシュという部分で強みになる。エンドからエンドのランでこぎ続ける時は低負荷の高回転の運動の方が必要になってくる」

一瞬のスピードアップにつながる重い負荷の筋トレに加え、フルコートで走り続けるためのスタミナを養う、軽い負荷で回転数を上げるトレーニング。
この2つを組み合わせでトータルのスピードアップを目指している。

千脇「代表はまずはトランジションバスケが先なので、自分のトップスピード上げていくことは必然」
フルコートのトランジションバスケにスピードは必要不可欠。
全ては代表復帰のために…

千脇「地元でオリンピック・パラリンピックが開催されるのは非常に大きなことだし、一生に一度あるかないかのビッグイベントなので、出たいという思いはある。今自分がやるべきことは、一つ一つの課題をクリアしていくことしかない」

2020年、日本代表として戦うために挑戦を続ける千脇選手。
厳しいドイツでのプレーにこだわる理由とは?

千脇「ゴール下の自分の得点力というのはあった」

ゴール下での得点力。障がいの重さによってポイントが割り振られ、コート上の選手の合計点が14点以下でなければならない車いすバスケ。千脇選手の持ち点は障がいが重く、ローポインターと呼ばれる2.5。
体幹が使えないため、シュートを打つよりも味方のシュートを生かすプレーがメイン。それでも得点力を求める理由とは。

千脇「重要なポイントで自分にボールが回ってきて、その中でシュートを外している。決めていれば10〜12点くらいプラスになる。自分に回ってくる場面を決めきる」

試合中、必ず訪れるシュートチャンス。限られた機会をしっかりモノにする決定力が欲しい。

千脇「日本の中では相手のフィジカルに欠ける部分があったり、高さに物足りなさを感じていた。(ドイツの)高いフィジカルの中でやっていければ必ず自分の体が覚えて、相手のフィジカルを吸収して自分自身の得点につなげられる部分が出てくる」

レベルの高いドイツで、しかもローポインターであってもシュートを決められる選手になる。
チーム練習が終わっても、黙々とシュートを打ち続ける千脇選手。

ローポインターの得点力について日本代表の及川ヘッドコーチも。

及川「ローポインターの得点力が上がれば上がるほどチームがどこからでも得点が取れる。ローポインターの得点力はすごく重要で、得点を取れる選手が大事になってくる」

目標の代表復帰へ、大きな追い風となる得点力アップ。
今年3月、リーグチャンピオンを決めるプレーオフ。
格上のライバル相手に千脇選手は重要な場面で得点。チームの金星に大きく貢献した。

千脇ON「(持ち点が)2.5だからといって、4.0、4.5の選手に勝てないとは思えない。障がい云々関係なしに勝っていける2.5、障がいの重い選手に自分自身がなれたら」

ピックもスピードもシュートも。たとえ相手の障がいが軽くても全ての技術で上回る。それが千脇選手の理想像。

今年5月。
東京パラリンピックの会場でもある武蔵野の森総合スポーツプラザ。ドイツでのシーズンを終え帰国した千脇選手は日本での所属チーム、NoExcuseの一員としてクラブ日本一を決める天皇杯に出場。
試合開始早々、世界最高峰・ドイツリーグでもまれた千脇選手が違いを見せつける。得意のピックでディフェンス2人をしっかりブロック。味方のゴールをおぜん立て。
さらに、エンドが変わった第4ピリオド。
相手のカウンターに疲れの出る終盤でもナイスブロック。課題のスピード、スタミナで成果を見せる。
そして、取り組んできたシュートでも限られたチャンスで、確実にゴール。
さらに、ドイツリーグで鍛えた得点力を見せつける。
試合は1点のビハインド。終了間際、執念の逆転ゴール。
大車輪の活躍でチームを逆転勝利に導いた。

試合を観戦した及川ヘッドコーチは…

及川「すごくよくなった。千脇の決定力は一年で結構上がったなと。2020は結果を出す年として動いているので、千脇の爆発的なアタックは想像できる」

千脇「日本全体が2020が最終目標ってなっている。そこを最終目標でなく通過点にして、自分の中ではまだまだ課題は多く残っているので、一つ一つクリアしていきたい」

ピックもスピードもシュートも、全てで圧倒できる選手へ。
目標の代表復帰、東京パラリンピックさえも通過点。
千脇選手の挑戦は続く。

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