放送内容

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第200回 パラ射撃 水田光夏

2020年1月26日

パラ射撃、水田光夏。
競技を始めてわずか1年で全日本選手権、準優勝。
去年、世界選手権で東京パラリンピック出場に必要な基準点をクリアし、出場国枠を獲得。射撃選手の代表内定、第一号となった。
そんな彼女には誰にも負けない武器がある。

「ブレの少ない銃身。」

彼女は感覚のない指先で10m先の小さな的を射抜く。特殊な装置を使うと、そのブレの少なさが明らかに。秘密は指先にあった。
そして迎えたパラリンピック前の重要な一戦。
国内最高峰の舞台で本領を発揮すると、驚きの結果が。
進化し続ける若きシューター、水田光夏の挑戦を追った。

東京・足立区。
水田選手は毎週、スポーツセンターで射撃の練習を行っている。
射撃のライフルを扱うのには所持許可証が必要。たとえ家族であっても触ることは許されない。

1997年、東京・町田に生まれた水田選手。
クラシックバレエやスキーが大好きな子どもだった。
中学2年生の時に難病「シャルコー・マリー・トゥース病」を発症。徐々に指先から感覚がマヒしていく病気で運動ができなくなり、車椅子での生活になった。

水田「足は、膝から下まで感覚がなくて、右手は肘の手前くらいまで感覚がない状態で、左手は指先の感覚はないけど動く。」

高校生のときに、自分でもできる競技を探して出会ったのが「パラ射撃」。
射撃の中には、ピストルとライフルと呼ばれる2種類のタイプの銃があり、さらに、それぞれ火薬を使用するものと空気銃とがある。
水田選手が行っているのは、空気の力で弾を押し出すエアライフル。
所持許可証を取得すると19歳から練習を開始。
1年後、初めて出場した全日本選手権で、3度のパラリンピック経験のあるベテラン、瀬賀亜希子選手に0.5点差と迫る2位に。
去年10月、シドニーで行われた世界選手権では東京パラリンピック出場に必要な基準点をクリアし、出場国枠を獲得。射撃選手の中では最速で日本代表に内定した。
大学4年生の水田選手は現在22歳。年齢層が高めの射撃界で、ひときわ輝く存在。瀬賀選手も若い水田選手の台頭を待ち望んでいた。

瀬賀「今まで地味な感じで射撃があったんですけど水田選手が入ってきてからイヤリングをしてたりとか、マニキュアしてたりとか、そういう選手を今まで求めてたんですね。いつも自分も注目してるし、それを見て、かっこいいとか素敵とか思ってくれる(若い)人が入ってきてくれるとうれしいなと思っています。」

射撃を始めた時から教えているのが、コーチの鳥居さん。年の差、41歳のコンビ。そして競技をする上で欠かせないのがお母さん。全ての練習、試合に同行しサポート。母であり大切なパートナー。
上肢でライフルを保持できないSH2クラスの水田選手は銃を専用のスタンドで支え、両ひじをテーブルについて構える伏射という姿勢で撃つ。
射撃には立射、膝射、伏射と、3種類の姿勢があるが、車いすの選手は、かがんだり、ふせることができない。その代わりに、台や机に片ひじや両ひじをつき、競技を行う。その他のルールは、ほぼ健常者と同じ。
射座と呼ばれる、射撃エリアに入るとまず行われるのが「セッティング」。

水田「銃を構えて自分の体が安定して止まるところを探して安定したら銃口が的に向くように向きを変えてもらいます。」

狙うのは、10メートル離れたところにある的。黒い丸の大きさは、500円硬貨ほど。当たれば10点という中心の点はわずか0.5ミリ。
実は、ライフルの伏射では10点は当たり前。いかに10点の中心を撃ち抜けるか、小数点の位まで計測して競う。完全に中心だと10.9。そこから少しずれるごとに0.1ずつ点数が下がる。その差、わずか0.25ミリ。
ちなみに、10.9というのは、10メートル離れたところにある5円玉を狙い、穴に触れずに撃ち抜くほどの精度だとか。
選手がのぞくのは、リアサイトと呼ばれるレンズもないおよそ1ミリの穴。そこから銃の先にあるフロントサイトと呼ばれる4ミリほどの穴を通して的を狙う。そして、のぞいた穴と、フロントサイトの丸、的の黒い丸、この3つの円の中心がすべて揃った時に、はじめて的の真ん中に銃の照準が合うんだそう。
世界と戦うには平均10.6以上が必要。そこで水田選手、普段から10.5以下は失敗と考えるようにしている。
そんな水田選手のストロングポイントが、「ブレの少ない銃身」。
銃身の、わずかなブレも許されないのがエアライフル。選手の手元からスタンドまで、およそ30センチだとすると、10メートル先の的では、手元のブレがおよそ30倍に。そのため、ど真ん中の10.9というのは試合ではあまり出ないんだそう。
なぜ銃身のブレが少ないのか。

水田「撃つ瞬間だけ息を止めるようにしていて、もともと少し呼吸が浅めなので構えている間もそんなに大きく上下せず、照準のときもできてるのかなと思います。」

ほかにもブレの少なさを支えているのが「引き金の引き方」。

水田「バンって引くんじゃなくてそーっと引いてなるべく撃った後も銃が動かないようにということを意識してやってます。」

力を入れて一気に引き金を引くと、左右に大きくブレてしまう。およそ50グラムと軽い力で引けるよう調整されている水田選手のライフル。

しかし、左手の指先には感覚がなかったはずだが・・・

水田「触っているのはわからないので、最初の方は鏡を見て位置を確認してっていう風に練習をしていて、今ではそんなに気にせずにひけるように身体が覚えてる。」

積み上げてきた練習量がブレの少ない絶妙な力加減を支えていた。

去年11月、千葉で行われた全日本選手権大会。
大会での目標は?

水田「自己ベストが633点なんですけど、それを0.1点でも超えることです。」

この大会は東京パラを想定したルールで行われた。1時間に60発撃つ本戦で合計点数を競い、そのあと、上位8名によるファイナルと呼ばれる決勝戦が行われる。
まずは大事な1発目、幸先よく10.8。
そして、5発目、ど真ん中の10.9。
射撃では10発を1シリーズと数えるが、水田選手の1シリーズ目の合計点は106.2。

鳥居コーチ「練習の中で1シリーズ106点台を撃とうよというのが目標になっていたので、 よし!と目標達成と思いましたね。」

終わってみれば60発中10.9を8発。自己ベストを0.3上回る633.3を叩きだし、本戦を1位で通過した。

上位8名によるファイナルでも好調を維持し、結果は、全日本選手権優勝。東京パラに向けて弾みをつける一方、見えてきた課題も。

水田「大きく外すということもあるので、まずは外す回数を減らすこと。それによって点数もあがっていきますし、そこが課題だなと思っています。」

今は目の前の課題を1つ1つクリアすることが最優先。それが出来ればきっとパラリンピックでのメダルも射程圏内に。

水田「大会ごとに自分の自己ベストを出していくっていうことを目標にしていきたいと思っています。」

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