放送内容

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第214回 パラ馬術 高嶋活士

2020年6月7日

パラ馬術、高嶋活士。
元JRAのジョッキー。
落馬事故で引退後、リハビリを経てパラ馬術に転向。
騎手時代に培った技術と強靭な身体能力を活かし、国内大会を次々と制覇。
彼には世界で闘うための武器がある・・・

「下半身を使った馬のコントロール」

パラ馬術は馬の正確な動きと美しい姿勢がポイントとなる採点競技。
右半身の麻痺を抱えながら、馬を操るのは至難の技。
愛馬、ケネディとの過酷な練習の日々。
そんな中、彼の元に新たなパートナーが。
東京パラリンピックに出場できるのは一頭のみ。
決断の理由とは?

人馬一体、さらなる高みを目指す27歳、高嶋活士(たかしまかつじ)の挑戦を追った。

今年3月。
高嶋選手の練習拠点、埼玉県の馬術クラブ。
愛馬ケネディ。
ドイツ生まれの男の子12歳、高嶋選手とペアを組んで3年になる。指導する照井コーチは、リオオリンピックの馬術日本代表監督。ジョッキーを引退した高嶋選手に馬術を基礎から教え込んだ師匠。

馬術では手綱を引いたり、かかとで馬の腹を押したり、手足のわずかな動きで、馬に指示を与える。右半身に麻痺が残る高嶋選手。左足では、馬の腹を細かく押して指示を出しているのに対し、右足はかかとを押し付けたまま。
これでは、指示をうまく伝達できないのはもちろん、馬の体に大きな負担をかけてしまう。
麻痺が残る右手と右足で馬をコントロールする。
馬術競技で勝つためには、その課題を乗り越えることが不可欠。

照井コーチ「ただがむしゃらに力ずくでやることが馬によく伝わるということじゃなくて、やはり馬は生き物ですので、性格とかその時の気持ちを配慮した乗り方ができると思う。同じ頑張るんでもただがむしゃらじゃない。馬が理解してくれる扶助を与えること、軽いタッチの方が逆によく反応するっていう部分があるんですよ」

馬術は動物と出場する唯一のパラリンピック競技。
登録した選手と馬でのみ出場が許される。そのためケネディの健康管理はとても大切。

馬術が行われるのは、60メートル×20メートルの馬場。
決められた歩みで、直進や円を描くなど規定のコースを進む。
基本となるのは3つの歩調。
まずは常歩。四本の脚がゆったりと代わる代わる着地。ポクポクポクポクの4拍子。
続いては速歩。対角線上の脚が交互に動く、トーントーンと小走りの2拍子。
最後は駈歩。跳躍のような走り方で、パカラン、パカランの3拍子。
競技会では、この3つの歩調で決められたコースを進みながら演技をする。
5分30秒の規定時間に、およそ30の運動項目があり、それぞれを10点満点で審査。総得点の何%を獲得できたかで競われる。
審査の基準は動きの正確さと、馬の姿勢の美しさ。
顎を引き鼻筋が地面と垂直となるのが理想的な姿勢。足を高く上げるなど躍動感も求められる。

高嶋選手の最大の武器は、下半身を使った馬のコントロール。
ポイントは腰の動き。
馬術では、足や手綱捌きだけではなく骨盤を使い馬に指示を伝える。
高嶋選手は骨盤で馬の背中を押し、推進力となる後ろ足の力を引き出している。

高嶋選手「骨盤の下の尖ったところを押し付けるというか、馬がポンポン動くからではなく人の意思で バランスボールでぐんぐんやる感じ」

パラ馬術の国内大会を連覇している高嶋選手。
しかし・・・

高嶋選手「今は焦ってますね」

パラ馬術競技は障がいの重さで5つのグレードに分かれ、高嶋選手はグレード4に出場。ただし、東京パラリンピックの出場枠はグレードに関係なく、国で4人。出場した大会で好成績を収め続けた選手が代表の座を手に。
グレード4では敵なしの高嶋選手も、代表争いでは4番手か5番手。気が抜けない。

高嶋選手「上達するスピードが落ちてる。もっと上手くならないとダメかなって気持ちがある」

高嶋選手が課題とする、「ターン・オン・ザ・ホンチズ」という技。常歩から後ろ足を起点に馬体を180度回転。競技会では2倍の得点が加算される。
手綱の力加減と下半身の動きで推進力を引き出さなければならない。

高嶋選手の新たなパートナー、ヒュースティン。
出場資格を得た選手と馬のペアだけが大会に出られる馬術競技。馬の体調不良や怪我に備えて、上位を目指す選手は2頭の馬で準備する。
日本に来て4ヶ月。まだ日の浅いヒュースティンだが、高嶋選手とのコンビネーションは上々。

高嶋選手「僕の弱い右足の力でも感じ取って動いてくれるのでそういうところはいい馬ですよ」

照井コーチ「ケネディの場合は力強さが一つ特徴だと思う。ヒュースティンの場合は逆に軽やかさ優雅さ、そういう部分があると思っています」

新パートナー・ヒュースティン。実は少し神経質な面があるそう。
照井コーチはそんなヒュースティンを試すために、わざと不慣れなカメラ前を走らせる。東京パラリンピック代表の最終選考会では多くの取材カメラに委縮しない精神力も必要。
ケネディとヒュースティン、次の大会で点数の高い方と東京パラリンピックを目指すことになる。
東京パラリンピックに向け、連日特訓を繰り返す高嶋選手と2頭の愛馬。
最終選考となる大会に向け、照井コーチとの練習は、日に日に熱を帯びていた。

照井コーチ「彼としては精神的にはかなり厳しい状況でもある。でもそこを1つ心を落ち着けてね。じっくり構えて今できることをしっかりやっていってもらいたい」

高嶋選手「国内最後の選考試合的なものになるんで、そこでバシッと成績を出さないと代表入りは危うくなる。いい点を出したいですよね」

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