放送内容

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第189回 パラテコンドー 太田渉子①

2019年11月3日

パラテコンドー、太田渉子。
冬季パラリンピックのスキー競技で2度のメダルに輝いたトップアスリート。
そんな彼女が新たに挑戦したのは東京から新競技として採用されたパラテコンドー。
「足のボクシング」とも言われるテコンドーはパラリンピック競技の中で、唯一体に攻撃を当てあう格闘技。
去年、本格的に競技を始め、わずか1年で現在の世界ランクは堂々8位。新たな舞台で驚異的な成長を見せている。
そんな彼女には、武器がある・・・

「強い体幹を生かした横蹴り」

瞬時に間合いを詰め放つ横蹴り。カットと呼ばれるこの技で敵を圧倒する。
このストロングポイントで今年、世界ランク1位に勝利。東京のメダル候補に名乗りを上げた。
さらなる強さを追い求め、進化を続ける太田渉子の挑戦を追った。

墨田区・曳舟の武道場に太田選手の姿があった。
週に3日、仕事終わりにここでテコンドーの稽古に励んでいる。

1989年山形に生まれた太田選手。
先天性左手全指欠損という障がいで、左手の指がない。
体を動かすのが好きだった少女は小学3年生からスキーを始めると、その才能が開花。17歳でトリノパラリンピックに日本人最年少で出場するとバイアスロンで銅メダルを獲得。さらに、2010年のバンクーバーではクロスカントリーで銀メダル。ソチでは日本代表の旗手も務めたトップアスリート。
そんな彼女が2014年にスキーを引退し、新たに挑戦したのがパラテコンドー。

太田「東京2020でパラテコンドーが正式種目になるというのを聞いて、一度どんな競技なのかどんなスポーツなのか見てみたいと思ってテコンドーのジュニアの合宿に参加させて頂いて・・・」

そこで、あの選手と運命的な出会いが。
シドニーオリンピックの銅メダリスト、岡本依子さん。
岡本依子さんの強力なプッシュで道場を紹介されるも、最初は趣味程度だったとか。

その気持ちを変えたのが去年の選手権。
ここで太田選手は優勝。女子では唯一強化選手に選ばれたことで本格的にテコンドーに打ち込むことを決めた。
パラテコンドーは東京パラリンピックの競技の中では直接体に攻撃を当てあう唯一の格闘技。得点になるのは足技のみで、腹部のプロテクターにしっかり蹴りを当てることで得点になる。
通常の蹴りは全て2ポイントだが、体を回転させる難しい技には加点がつき、半回転して蹴ると3ポイント。1回転すると4ポイントになる。
試合は8角形のエリア内で行われ、2分3ラウンドを戦い得点の多さで競う。
58キロ超級の太田選手は今年の世界選手権で銅メダルを獲得。来年の東京に向け、急激な成長を遂げている。
そんな太田選手のストロングポイント、「強い体幹を生かした横蹴り」。
半身に構えた状態から放つ横蹴り、通称「カット」。
これは、ボクシングのジャブのような技で、試合で決めると2ポイントになる。
彼女のストロングポイントにはスキーの経験が大きく関わっているそう…。
師範の小池さん曰く、太田選手のカットには秘密が。
1つ目は、カットの『威力』。
実は、テコンドーの防具には足と胴にセンサーが付いていて、当たった場所だけでなく、蹴りの強さも測定。つまり弱い蹴りだとポイントにならないんですが、太田選手の場合は・・・

小池師範「前にやってたスキーの体幹の強さっていうのがすごく今のテコンドーにもいきていて、男子の選手に比べても強いというくらいの体幹を持っているので体の維持ですとか、蹴った姿勢の維持とかっていうのが非常にいいんですね。パワーをすべて相手に伝えていける体を持っているっていう強みですね」

スキーで培った体幹の強さ、雪の上で磨き上げた体が太田選手のカット、1つ目の秘密。
カットの秘密、2つ目はスピード。

太田「重心を高くもって体幹を締めたほうが蹴りも速くなります。重心が下がった状態から蹴ろうとすると一回よいしょて蹴ろうとするとこのよいしょの時間がなくなるので、速い蹴りができると思います。」

重心が下がった状態からだと蹴りまでに動作が2段階。 
一方、重心が高ければ、蹴りまでは一動作。これを可能にしているのが強い体幹。
最短距離から繰り出されるカットは相手の一瞬の隙をつく有効打。
太田選手が戦う58キロ超級は体重に上限がないため、大柄な選手も多くいかにリーチの差を克服するかがポイント。カギを握るのは、蹴る方の足ではなく、「軸足」に秘密が。

小池師範「ふつうは蹴った後に足がそのまま開いてしまうことが多いんですね。こうするともう次蹴れないし動けない。ここでもらうことが多いんですね。しっかり後ろ脚ついて蹴れるっていうのが、だいぶ。こういうカットしていれば、試合でもそんなにポイント取られづらいだろうなっていうのはすごく感じてますね。」

太田選手のカットをみると、蹴った瞬間軸足がしっかりと引きつけられている。
ステップで相手との間合いを一気に詰めることで大柄な選手とのリーチの差を埋めている。

威力・スピード・軸足、3拍子がそろった太田選手のカット。今年2月にトルコで開催された世界選手権ではこの武器で世界ランク1位を大逆転で破り、銅メダルを獲得した。
しかし太田選手、この結果に満足していないそう。

太田「蹴りの自分の引き出しが少ないので、すぐに攻略されてしまうかなと思います。」

より高いポイントを獲得するためには攻撃のバリエーションが必要。そこで、最近、得意技のカットのほかに、新たな技を特訓中。

太田「試合でまだ出せていない、後ろ回し蹴りやターンなどの技を練習しています。」

強くてスピードのあるカットに、さらに技のバリエーションが増えれば、もっと優位に戦える。それが狙い。
雪山から格闘技へと戦いの場を移し、新たな高みへ挑み続ける太田選手。
見据える先にあるものは。

太田「シーズンスポーツじゃなくていつでもどこでもだれでもできるスポーツなので、そのテコンドーの楽しさだったり、を知っていただきたいなと思います。今だいぶテコンドーらしい動きができるようになってきてるとは思うので、さらに磨きをかけて東京2020を目指していきたいなと思っています。」

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