放送内容

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第222回 車いすフェンシング スペシャル

2020年8月2日

車いすフェンシング。
剣や防具は、健常者と同じ。大きく異なるのは、両者、車いすを固定した状態で戦うこと。
逃げ場のない戦いのなか、体格差で劣る日本が、世界と戦うための課題。
それは…「リーチの差」。
課題を克服し、目指すは東京でのメダル獲得。
今回は、車いすフェンシングスペシャル。
日本期待の3選手の挑戦を追った。

これまでストロングポイントでは東京パラリンピック出場が期待される車いすフェンシングの3選手に密着してきた。
3年前の京都。
彼女が車いすフェンシング日本女子のエース、櫻井杏理選手。
練習拠点は、廃校を再利用したナショナルトレーニングセンター。

ここで車いすフェンシングのルールをご説明。
車いすフェンシングは、フルーレ・エペ・サーブルの3種目。それぞれ剣の形状が違う。フルーレは、ジャケットを着た胴体のみが有効面となり、エペとサーブルは上半身すべてが有効。サーブルは剣のどこかが有効面に触れるだけでポイントとなるが、剣を突くことで得点となるフルーレとエペには先端に装置がついており、フルーレは500グラム以上、エペはさらに強い750グラム以上の力で突かなければならない。
櫻井選手のメイン種目は「エペ」。
相手を強く突かなければポイントにならない。女子選手の中でも、小柄な櫻井選手。それでも、競技歴わずか3年で、日本女子18年ぶりの快挙となるワールドカップの銀メダルを獲得。櫻井選手がリーチ差のある外国人選手に勝つために磨いてきた武器がある。
リーチの差を補うため、胴体より距離の近い、腕を狙ってポイントを奪う。これこそが、櫻井選手が世界で戦うための武器。
アームを仕留めるクーペ

櫻井選手「自分よりもリーチの長い選手だと胸を狙うっていうのが難しい遠いので。相手との距離がある中でもポイントにつなげられるっていうメリットがあります」

腕を強く突くために必要なのが…手首の動き。
手首をムチのようにしならせ、しっかりとスナップを利かせているのがわかる。この動きが剣先に伝わり、相手の腕を強い力で突くことができる。そのために必要なのが、毎日の反復練習。

櫻井選手「これでも足りないくらい。トップレベルの選手たちと比べると、まだ考えながらやってるっていう段階を考える間もなく体で反応できるようにもっていきたい。」

更なる高みを目指す櫻井選手。
拠点をフェンシング発祥の地・イギリスへ。本場で腕を磨いている。

続いては、加納慎太郎選手。
取材を始めたのは2年前。
身長167センチと小柄な体格で、大柄な外国人選手とのリーチ差にある経験を生かした方法で挑んでいる。

加納選手「『後の先』ですね。後の先をいかした戦い方を心がけている」

実はこれ、健常者のときに剣道をしていた加納選手が学んだ戦法の一つ。相手にわざと攻撃をさせ、その隙をつくカウンター攻撃のことを意味する。
世界で勝つために磨いた技…

加納選手「僕自身が小柄な選手なので海外で大きい選手に対して結果を出していかないといけないということは、反撃「リポスト」っていうのをやっていこうと思っています」

コンマ1秒でも速く、相手に剣を届けるため特に重要なのが…

加納選手「柔らかさ動かすところの柔軟性は必要」

驚異の柔軟性が速さを生んでいる。
日々欠かさないのが…ストレッチ。長い時には、なんと2時間にも及ぶそう。
自分の特徴を生かし世界へ挑む加納選手。東京ではどんな進化を見せてくれるのか?

3年前。
もう1人の選手にも密着していた。
左足の股関節に障害がある安直樹選手。
もともとは車いすバスケットボールの選手で、パワーを武器にトッププレイヤーとして活躍していた。
2004年、26歳でアテネパラリンピックの日本代表に。しかし2012年、代表から落選…。

安選手「まだ自分はやれる その気持ちを大事にしてた」

そこで、もう一度パラリンピックでメダルを目指すため、車いすフェンシングへ転向。持ち前のパワーで相手をねじ伏せ、日本選手権3連覇という快挙を成し遂げた。

しかしその後、立ちはだかった大きな壁…

安選手「ワールドカップや世界選手権でいろんな強豪の選手と壁が大きいのがすごく大きいのがわかっていまして。」

その問題点を、コーチの長良さんは…

長良コーチ「力づくで行くところがアダとなって相手にカウンターを食らう。リラックスさせて身体を使えればもっとスピードにつながる」

力任せの攻撃を改善するため、取り入れた練習法というのが…ヨガ。その効果は…

安選手「柔軟性とか力の抜け方とかなにかしらヒントがある。」

すると、戦い方にある変化の兆しが…
それが、進化する安選手のストロングポイント。
緩急が生むスピードアタック。

安選手「リラックスした状態からのアタック」

進化のキーワードは「リラックス」。
フェンシングで言う「リラックス」とは筋肉の弛緩状態のこと。1%でも強くなれる可能性があれば、失敗を恐れず挑戦する。これが安選手のモットー。
変化を恐れない男、安選手の挑戦は続く。

パラリンピックイヤーを迎えるはずだった2020年。
新型コロナウイルスの影響により、開催が1年延期に…。厳しい状況が続くいま、選手はどう過ごしているのか?

2018年から単身イギリスへ移住し、東京パラリンピックを目指す櫻井杏理選手。新型コロナウイルスの感染拡大後も、イギリスに残った櫻井選手をリモート取材。
櫻井選手が練習拠点に選んだのは、イギリス・ロンドンにある名門、「レオンポール・フェンシングクラブ」。ジュニアからシニアまで、世界各国から強豪選手が集まる場所なんだそう。

櫻井選手「日本と大きく違うのが普通のフェンシングクラブの会場の中に車いす選手用のピストがあって、そこに健常者が入れ替わり立ち替わりで実践練習に協力してくれる何もかもが違うのが最初に抱いた感覚」

実は、健常者の選手にとっても車いすで練習をすることは大きなメリットなんだそう。

櫻井選手「車いすで固定されてる状態である一定の距離感で戦わなければならない場合に健常者にとってはアームワークが、かなり要求されてくるのでどうしても普段フットワークでごまかし気味の健常者の選手も、いざ本当に近い距離で戦うときのアームワーク。手数の多さっていうのはチェアに乗って練習してみて、改めて感じたって感想もらうことも多いですし、健常者の試合の前に車椅子で練習させて欲しいと声かけていただくこともありますね。」

健常者と障害者が切磋琢磨できる。
櫻井選手にとっては、これ以上ない環境。
さらに、レオンポールで健常者を教える山本コーチと二人三脚で取り組む、新たな練習法もあるそう。

櫻井選手「負荷が低負荷でボディバランス、実際に試合の動きに真似た動きができるウォーミングアップということで」

試合の前に必ず行うという練習法。

櫻井選手「お手玉です。最初はボールを使ってたんですけど、ボールだと結局落としてしまった時に跳ねちゃうのでいちいち取りに行かないといけないっていう中でちょうど日本文化のお手玉だと落としてもその場から動くことがないので。腕というより体の動き。その日のコンディションを確かめる意味でもすごく指標になる」

来年へ延期となった東京パラリンピック。
ロックダウン後も単身イギリスでトレーニングを続ける櫻井杏理選手。
フェンシング場の再開を待つ間、精力的にランニングや筋力トレーニングを行い、肉体改造を図っていたんだそう。
フェンシングが出来ない中、限られた環境でいかに努力できるか?強い決意で、自らを鼓舞する。

櫻井選手「このピンチをどうチャンスに変えれるかっていうのがアスリートにとって本質的な部分を問われているというのも感じるので、そこはやっぱり当初と変わらずに東京の舞台で最高のパフォーマンスを発揮して、頂点に立ちたいっていうのは今も全く変わらないし、ぶれずに追いかけている。それこそ日本に帰りたいけど、いろんなものを犠牲にしてこの場にいる意味。より強く意識するきっかけになったのが唯一のコロナの恩恵かなと思っています。」

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