ストロングポイント

毎週日曜 17:30~18:00放送

放送内容

第178回 水泳 山田拓朗③

2019年8月11日 放送

水泳・山田拓朗(やまだたくろう)、28歳。
リオパラリンピック、日本(にほん)新記録で銅メダルを獲得。
1年後の東京パラリンピックで金メダルを狙う実力派スイマー。
彼には誰にも負けない武器がある。

「進化し続ける泳速度」

100分の1秒が勝敗を分ける世界、水中でのスピードは誰にも負けない。
世界トップレベルの進化し続ける泳速度こそが彼のストロングポイント。自己ベストを目指し、新たに取り入れた秘策。さらに限界を超えるため、秘密の道具を取り入れ、日々己を鍛え抜く。金メダルのため、進化を止めない日本(にほん)パラ水泳界のエースに迫る。

パラリンピックの水泳には障がいの種類によって3つのクラスがある。
さらに山田選手のクラスである肢体(したい)不自由の中でも、障がいの重い順に1から10に分けられている。
山田選手が戦うのは、その中でも2番目に障がいの軽いS9(エスキュー)というクラス。
先天性の障がいで左肘から先がない山田選手。水泳を始めたのは3歳のころ。

山田「もともとすごい水が苦手だったみたいで、なんかあった時に自分の命は守れるくらい泳げたほうがいいんじゃないかってことで、近くのスイミングスクールに通い始めましたね」

両親のすすめで始めるも、最初のころは水が苦手…。そんな山田選手が水泳にのめり込む転機となったのが…

山田「2000年にシドニーのパラリンピックがあって、そこで先輩が金メダルとられて。その後に実物を見せてもらったんですけどそれがすごいかっこよくて。自分でこれとりたいなって思って、練習頑張り始めたのがパラリンピックにかかわるきっかけになったので、やっぱりちっちゃいころはメダルというのが自分としては嬉しかったんでモチベーションになりました」

夢への挑戦は13歳のとき。
なんと日本史上最年少でアテネパラリンピックに出場を果たす。

山田「やっぱ大会の規模というか、雰囲気は独特なものがあると思うので、そこに圧倒されたというか、これがパラリンピックなんだなって思ったのは覚えていますね」

その後、世界のトップスイマーへと成長。4大会連続でパラリンピックに出場すると、前回のリオでは50m自由形で日本(にほん)新記録26秒00をたたき出し、悲願の銅メダルを獲得。
子供の頃、夢見たメダリストに遂に仲間入りを果たした山田選手。
東京では金へ…
カギとなるストロングポイントが「進化し続ける泳速度」。
泳速度とはその言葉どおり、ストロークで泳いでいる時の速度の事を言う。
この世界トップレベルの泳速度は、どのようにして生まれたのか。
山田選手が専門にしているのは、水泳の中で最も距離が短い50m自由形。
陸上競技でいう100m走。一瞬のミスが命取りに。
距離が短いため、100分の1秒差で順位が変わるシビアな世界。リオでは、その厳しさを思い知らされた。
銅メダルだった山田選手、金メダルとの差は、100分の5秒。銀メダルとの差は100分の1秒。指先のわずかな差がメダルの色を分けた。
その100分の5秒を埋めるため、欠かすことができないのが筋力トレーニング。
週2回、ジムで汗を流す。

山田「体幹は体の幹なので、そこがふにゃふにゃだと力を発揮した時に力が逃げちゃうんですけど。そうならないようにここで全て連動するようにつなげる」

泳速度と体幹には、どのような関係があるのか?

話を伺ったのは4年前から山田選手を指導するトレーナーの小泉(こいずみ)さん。実は、あの北島康介選手のトレーナーも務めた凄い方。

小泉「単純に手の力だけが強くなるとか、ストロークだけの力が強くなると結局泳いでいる時に抵抗になるわけですよ。要は推進力が早くなればなるほどそれだけ体幹の固定力が求められる」

速く泳ぐために重要なのが体を真っすぐにし、水の抵抗を少なくするストリームラインと呼ばれる姿勢。しかし、推進力があがるほど、水の抵抗も増すため、よい姿勢を維持することが難しくなる。そこで体幹を鍛えることでストリームラインを維持できるようにしているそう。

山田選手が練習拠点にしているプール。
そこには欠かせないパートナーが。4年前から指導する高城(たかしろ)コーチ。
リオで共に戦った戦友と二人三脚。
1年後に迫った東京で今度こそは金メダルを掴むため、週5回、1日2時間、みっちり泳ぎ込みを行っている。
山田選手の泳ぎを誰よりも知る高城コーチは…

高城「見ている限りでは、すごくバランスがいい。水を捉えるのもうまい。力を入れるポイントを探るのもうまい。泳いでいるスピードは世界のトップの泳速度。すごく上手」

高城コーチも絶賛する、その泳速度にさらに磨きをかけるため、山田選手、ある練習を取り入れているそう。
体にゴムチューブをくくりつけて、そのまま水中へ。
チューブで引っ張ることで、いつも以上の泳速度を生みだすことが可能に。そこで生じる大きな水の抵抗を受け流すテクニックを身に付ける練習。
泳速度を極める山田選手、どうすれば水の抵抗が少なくなるのか。100分の1秒を縮める泳ぎを常に追い求めている。

来年に迫った東京パラリンピック。
日本で行われるとあって、注目度はこれまで以上。そこで山田選手が目指すものは…

山田「リオで銅メダルなんで、それよりもいい色のメダルが取れればと思いますけど。自分が納得するために目標タイムっていうのを突破しに行きたいと思いますし」

しかし50mで0秒1でも縮めるのは至難の業。
実は山田選手、リオでマークした26秒00以降、3年間、記録を更新できていない。

山田「そういう意味では25秒入って、25秒中盤くらいを出したいなって思いますけど」

そこで新たな秘策を身に着けようと、ある練習に取り組み始めていた。
それは、スタートの改良。
このスタートこそが山田選手の目指す25秒台を出す秘策。
実は、今までのスタートはある課題を抱えていた。
山田選手の場合障がいのある左腕が水の抵抗を受け、飛び込みの勢いを弱めてしまう。
そこで改良したポイントが…

山田「今はやや高く飛んで、深く入るという意識をしていますね。まあそこが一番水泳の中では高い速度が出る瞬間ではあるので、そのスピードをいかに殺さず泳ぎだすかっていうのが一番ポイント」

より角度をつけ、高いところから深く潜る飛び込み。
本来なら角度をつけず、浅く飛び込み、早めに浮きあがるのがセオリーだが、山田選手の場合は逆。
左腕にかかる水の抵抗を減らすために、あえて高いところから飛び込むことで、スタートの勢いを殺さないようにしている。

実際に改良に取り組み始め、10mまでの平均タイムが5秒0(ゼロ)から4秒5に。0(れい)秒5も縮まりました。
たしかな手ごたえ、確実に進化を遂げてる。そして改良中のスタートをレース形式で試す場がやってきた。果たして結果は?
メダリストの実力をみせつけ、見事優勝。
タイムはいまいち伸びなかったが、課題のスタートは?

山田「ひとまず飛び出しの高さを出すという部分に関しては、ここ最近のレースに比べて高さが出ていたと思うので、ここ最近のものの中ではいいものが出せたと思うので、それが試合でやろうとしてできたのがよかったかなと思う」

進化し続ける泳速度に、スタートダッシュという新たな武器を持って挑む1年後の東京パラリンピック。
常に速さを求める山田選手、その泳ぎの更なる進化に期待したい。

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