ストロングポイント

毎週日曜 17:30~18:00放送

放送内容

第173回 水泳(視覚障がい) 富田宇宙

2019年6月23日 放送

全盲のスイマー富田宇宙。
日本パラ水泳界で今、最も勢いに乗る男。
男子400m自由形では自身の持つアジア記録を塗り替え続けている。
今シーズン400m自由形の世界ランキングは堂々トップ。その他、2種目でも世界トップ3に名を連ねている。
彼には誰にも負けない武器がある。
「最後まで落ちない泳速度」
多くの選手がスピードを落とすレース中盤にタイムをキープ、さらに終盤、ペースアップする泳速度が彼のストロングポイント。
そんな富田の最強のライバルがリオパラリンピックで4つのメダルを獲得した日本のエース・木村敬一。自慢のスピードを支える意外な特技。
2020年東京でのメダル獲得を目指す30歳・富田宇宙。その飽くなき挑戦を追った。

神奈川県にある日本体育大学のプールが富田選手の練習拠点。
2017年、日体大の大学院に入学した富田選手は、水泳部の一員として、大学生たちと共に練習に励んでいる。
日体大水泳部といえば、北島選手、中村選手、田島選手といったオリンピックメダリストを輩出してきた名門チーム。
練習は週6日、一日およそ8時間、水泳漬けの日々を送っている。

両親に進められ、3歳から水泳を始めた富田選手。
当時の夢はその名の通り宇宙飛行士。
しかし、高校2年の時、「網膜色素変性症」を発症。徐々に視野が狭くなり、視力が低下、失明の恐れもある難病。

富田「これから目が見えなくなりますって言われたときに自分がこれまで将来に抱いていた希望というか夢が一気になくなってしまうような感覚があって本当に絶望して死んでしまいたいなと思ったことも何度もありました。生きていく希望がない、楽しみがないというか、そういうつらい時期だったなと思います」

高校卒業後、視力の低下で、水泳を断念した富田選手はある競技と出会う。それは…競技ダンス。

富田「障がいがあっても健常者に負けないっていうか、その中では競技ダンスが一番できる競技かなと思って打ち込みました」

ダンスを初めて4年、その腕前はなんと全国大会に出場するまでに。
しかし、目の症状はさらに悪化。競技継続を断念した富田選手は視覚障がい者が打ち込めるスポーツ、パラ水泳に挑戦することになった。

水泳の視覚障がいクラスは障がいの程度によって3つに分けられている。
富田選手は競技を始めた当初、もっとも障がいの軽いクラス13の試合に出ていたが、2年ほど前からもっとも障がいが重い「全盲」のクラス11に変更された。しかし驚きの現象が。見えていた時よりタイムがグンと縮んでいる。

富田選手のストロングポイント、「最後まで落ちない泳速度」。
タイム短縮の秘密とは?

レース後半、ライバルたちを圧倒する富田選手の泳速度。
例えば、400mのラップタイムを見てみると…一般的な選手は中盤から後半にかけてタイムが落ちるのに対し…
アジア記録を出した時の富田選手は200メートルを超えてもスピードは落ちることなくタイムをキープ、さらにラスト100mで加速していることがわかる。
最後まで落ちない泳速度。

そのヒミツの1つが「日々の練習量」。
健常者の部員と同じメニューで一日2万メートル泳ぐ日も。その練習量は入学前のなんと3倍。
富田選手を指導する藤森コーチには練習量についてある考えがあった。

藤森「オリンピックの選手と練習していないとパラも世界で戦えないぐらいレベル上がってますので“最初は休んでいいよ、休憩しながら行こう”って言ってたんですけども途中から本人も意地も、そういうのが出てきたんで、パワーと持久力も数段ついたと思います」

そして、「最後まで落ちない泳速度」のヒミツは「コース取り」にも。
全盲クラスの選手はコースが見えないため、体の右側でコースロープをたどりながら泳ぐのがセオリー。しかし、この泳ぎ方では、ターンした後再び右側でコースロープをたどるため、結果、コースを一周することに。
この大回りがタイムロスにつながる。
一方、富田選手はターンしたあとそのまま同じコースロープをたどるため、まさに最短コース。
このムダのないコース取りによってスタミナを温存し、「最後まで落ちない泳速度」を維持している。
そんな富田選手のコース取りを支えているのがコース脇にいるタッパー。
タッパーとは、目視ができない選手のために、体をタッピング棒で叩いてターンやゴールを知らせる役割。
50メートルプールの端々に一人ずつ立ち、選手に合図を送る。
選手とタッパー、3人の信頼関係が好記録につながっていた。
そして、「最後まで落ちない泳速度」のヒミツはブラックゴーグルにもある。
本来、水泳のゴーグルは目視できるようになっているが、光を感じる選手もいるS11全盲クラスでは選手たちの公平を期すため、光を遮断する「ブラックゴーグル」の装着が義務づけられている。
このゴーグルで視界を完全に遮ることで、かえって思い切った泳ぎができる。

練習量、コース取り、ブラックゴーグル、この3つの要素がストロングポイント、「最後まで落ちない泳速度」を支えていた。

現在、富田選手は世界ランキング1位の400m自由形を始め、3種目でメダル圏内に入っている。
しかし富田選手よりメダルに近いのが日本パラ水泳のエース、木村敬一選手。
そんなライバル・木村選手に富田選手は刺激を受けてきた。
2人で目指したリオパラリンピックでしたが、富田選手は出場ならず・・・。
一方の木村選手は、リオで日本勢最多となる4つのメダルを獲得した。
2つ年下の木村選手も富田選手をライバルとして意識している。

木村「宇宙さん少しづつ迫ってきているのはわかってますし、宇宙さんが記録を上げてきてくれているって言うのは僕にとってすごく刺激になることですのでお互い刺激し合いながら高め合ってお互い速くなっていきたいなと思います」

そんな木村選手に負けない、大きな強みがあると富田選手は言う。

富田「彼はやっぱり生まれつきの全盲で僕は後から見えなくなっているんで、普通に見えていた状態の水泳をやっていたって言うのはすごく強みだと思いますね。やっぱり泳ぎのフォームで言えば僕の方か綺麗だって言われますし、泳ぎの効率では絶対僕の方がいいと思います」

高校生まで目が見えていた富田選手はムダのないフォームが持ち味。
木村選手の腕が曲がっているのに対し、両腕を伸ばし水の抵抗を減らしているのがわかる。

独自の泳ぎに磨きをかけて、目指すは来年の東京パラリンピック。
胸に秘めたリオの悔しさ。「最後まで落ちない泳速度」を武器に富田選手は夢舞台へと突き進む。

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