ストロングポイント

毎週日曜 17:30~18:00放送

放送内容

第169回 パラ馬術 高嶋活士②

2019年5月26日 放送

パラ馬術、高嶋活士。
競馬のジョッキーとして活躍が期待された矢先での落馬事故。希望を失いかけていた彼が次なる舞台に選んだのが「パラ馬術」。すると、その才能はすぐに花開き、競技をはじめ、わずか1年で日本の頂点に立った。技の正確さと、馬の姿勢の美しさを競うパラ馬術で今や国内無敵を誇る男には、世界で戦うための武器がある。
「下半身を使った馬のコントロール」
パラ馬術は馬の細かい動きが得点に表れる採点競技。右半身に麻痺が残るもののジョッキー時代に鍛えた下半身を使い、馬を巧みに操る技術が彼のストロングポイント。しかし…人馬一体の演技が求められるなか、3月の大会でまさかのアクシデントが…
浮き彫りになった大きな課題。人馬一体、東京パラリンピックを目指す26歳・高嶋活士の挑戦に密着した。

高嶋選手が練習拠点とする乗馬クラブ。
共に東京パラリンピックを目指す愛馬が11歳のケネディ。パートナーとなって2年になる。パラ馬術はパラリンピックで唯一動物と一緒に出場する競技。

パラ馬術はリオ大会以降、「選手と馬のコンビネーションでの出場資格」に変更された。つまり、ケネディが怪我をしたら、高嶋選手も出場できない、ということ。
そのため、ケネディの体調管理はとても大切。右半身に麻痺が残る高嶋選手ですが、自ら日々のケアを行う。

ケネディと硬い絆で結ばれた高嶋選手。
6年前までは、競馬のジョッキーだった。
しかしレース中に起きたアクシデント。落馬事故で無念の引退。

高嶋「馬以外の世界を考えられなかった。馬に乗るのは楽しいですから。馬に乗るなら勝負をしたいという思いがありました」

競馬のジョッキーから転身した高嶋選手。
戸惑いはなかったのか?

高嶋「まず第1に姿勢が全然違うので、そこを修正するのにはだいぶ苦戦しました」

馬の速さを最大に引き出す競馬のモンキースタイル。
一方、馬術は安定感と美しさを求め、上体を起こし騎乗。
姿勢の違いも克服し、高嶋選手は数々のパラ馬術大会で優勝。
そんな高嶋選手の最大の武器は「下半身を使った馬のコントロール」。

高嶋「馬乗りの人達は、エネルギーを下から上に循環させる。骨盤の下の尖ったところを押し付けるというか、馬がポンポン動くからではなく、人の意思でこう、バランスボールでぐんぐんやる感じですかね」

この騎乗スタイルにより、理想的な姿勢を実現。美しさと躍動感を引き出している。
そして、東京パラリンピックまで1年半となった今年3月。
日本を代表するトップ選手が出場するパラ馬術大会が行われた。

競技が行われる馬場は、20m×60m。
この中を、常歩(なみあし)や速歩(はやあし)など、決められた歩調と動作で移動しながら、円などの図形を描く。
審査の基準は、技の正確さと馬の姿勢の美しさ。
あごを引き、鼻筋が地面と垂直になるのが理想の姿勢。足を高く上げるなど、躍動感も大切。途中で馬の動きが止まると減点。
規定演技のインディビジュアルテストは3人の審判が、違う場所からジャッジ。30項目をそれぞれ10点満点で採点、合計得点の何パーセントを獲得できたかで競われる。
パラ馬術で障がいを補うために、馬具の改良が認められている。片手で操作できるように改良した手綱だったり、足を踏みかける鐙から足が外れないよう固定する選手も。
障がいの重さにより5段階のグレードに分けられ、高嶋選手が出場するのは、グレードⅣ。

東京パラリンピックを目指す高嶋選手にとって大切な一戦。
右半身に麻痺がある高嶋選手。右足に力が入りにくいため、ゴムバンドで鐙に固定する。
今大会の目標は?

高嶋「点数は65%を超えたいですね」

パラリンピックで世界と戦うためのひとつの基準が最終得点率65%。
高嶋選手のインディビジュアルテストが始まる。
目標の65%を獲得できるのか。
この試合の模様を国内大会の審判を務める小川きよさんの解説で見ていく。

小川「センターラインを真っ直ぐに進んできます。いいですね、真っ直ぐに来ています。はい、止まりました。あっバックしてしまいました。これはとても大きな過失です」

一度停止し、礼をするがここでケネディが後退。10点満点中4点の審判も。各項目の及第点は「6点」だが、目標の65%達成には、平均「6・5点」が必要。

小川「10m巻乗りです。いいですね。図形が正確なのが高嶋選手のいいところだと思います」

3人の審判の平均は6点。もう少し伸ばしたいところ。
そして次は難易度の高い肩内(かたうち)という技。首を30度、左に傾けたまま直進する。
しかし、首が傾きすぎと判定され、ここも平均6点。

小川「そしてここは収縮速歩で蹄跡に沿って真っ直ぐに行きます。とてもいいバランスだと思います。そして8項目、主審の前で停止。いい停止ですね」

ここで4歩下がるんですが、その歩幅がバラバラだと目の前の主審が厳しいジャッジ。
次は高嶋選手が最も苦手とする技、ターン・オン・ザ・ホンチズ。
後ろ足を起点に馬体を180度回転させる。

小川「一歩止まりました。これは大きな過失です」

ターンの途中で動きが止まってしまうミス。
競技はいよいよ終盤へ。
その時、高嶋選手にまさかのアクシデントが。

小川「馬が立ち上がりました。これは大きな反抗で、かなり点数が悪くなると思います」

何かに驚いたのか、突然立ち上がってしまったケネディ。

小川「ただ高嶋選手、そのあと非常に冷静ですね。あんな反抗があったとは思えないぐらい、人馬ともに落ち着いています。やはりこれは経験がものを言っている」

咄嗟の対応は、さすが元ジョッキー。

小川「そして回転をして最終ライン。主審のCに向かって真っ直ぐに入っていきます。速歩に移行して、そして停止。とてもいい停止ですね。四肢が揃って馬のバランスも良かったと思います」

高嶋選手、手応えは?

高嶋選手「良かったんじゃないですかね。すごくいいところをいい雰囲気で回っていたんで、ギリギリのラインで人馬共に動いてたんで、途中ハプニングが。馬も精神的な限界がきてビクッとなったけど、でもそれは人馬ともに限界を求めた結果なので、自分としては悪くはないと思う」

ハプニングも攻めた結果。納得の演技だった。
高嶋選手は62%を獲得し、グレードⅣで優勝。しかし、目標の65%を超えることは出来なかった。

大会で浮き彫りになった課題克服へ。世界で勝つための特訓が始まった。
愛馬ケネディとの絆をさらに深め、東京パラリンピックを目指す高嶋選手。人馬一体の挑戦は続く。

高嶋「特に馬術に関しては選手寿命が長いので、東京だけじゃなくパリとかその先まで。70歳で(馬に)乗っている人はいっぱいいますから。まだあと50年できますから、何十年かけてでもメダルを取りたいです」

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