ストロングポイント

毎週日曜 17:30~18:00放送

放送内容

第163回 ブラインドマラソン 道下美里④

2019年4月14日 放送

ブラインドマラソン、道下美里。
2016年リオパラリンピックで銀メダルに輝いた彼女には、誰にも負けない武器がある。

「粘り強いピッチ走法」

1分間に240歩。あの高橋尚子さんを上回る超高速のピッチ走法で一昨年、世界新記録を樹立した。
東京パラリンピックまで、あと499日。その開催都市で先月行われた、東京マラソン。3万8千人のランナーが参加したビッグレースに道下選手が初参戦。番組は道下選手に専属のカメラマンを付け密着。
東京パラリンピックで悲願の頂点へ。
彼女がゴールの先で見つけたものとは・・・

3月3日。東京マラソン当日の朝。

13歳の時、角膜を徐々にむしばむ難病で右目が見えなった道下選手。
25歳で左目の視力もほとんど失い、今ではぼんやりとシルエットや色が感じられる程度だそう。
マラソンを始めたのは30歳から。
やればやるだけ速くなる…すぐに走ることの楽しさに引き込まれた道下選手。
39歳の時、夢だったパラリンピックに初出場。見事、銀メダルを獲得した。
さらにその翌年、これまでの記録を2分以上更新する、2時間56分14秒の世界新記録を樹立。
東京パラリンピックの金メダル候補に躍り出た。

そんな彼女のストロングポイントは「粘り強いピッチ走法」。
ピッチ走法とは1歩の歩幅が小さく、その分、足の回転を増やしてスピードを上げる走り方。その典型はシドニーオリンピック金メダリスト・高橋尚子さん。
現役時代のピッチは1分間におよそ200歩。
道下選手はそのさらに上をいく、1分間におよそ240歩。
幼い頃から小さかったため、当たり前のように足を速く動かしていたという道下選手。日常で培った足の回転数をさらに鍛え、ストロングポイントに進化させていた。

そんな道下選手に欠かせないのが、「チーム道下」と呼ばれる伴走者の仲間たち。伴走者は選手の目となり、コースや路面状況など様々な情報を伝えながら、安全を確保し、共に走る。

そんな道下選手が先月、伴走者と共に挑んだのが…今や東京の名物となった東京マラソン。
道下選手には、ある狙いが。

道下「20年のパラリンピックのコースがまだ発表されていないのではっきりは言えないんですけど、もしオリンピックと同じようなコースが想定されるのであれば東京マラソンはコースとして走る部分に被るところがあるんですね。私たち視覚障がい者はどうしても足元の不安がつきまとう競技なので走るときは、なのでその不安を取り除くために実際体でコースを覚える作業ができればいい」

レース前日。
今大会の伴走を任されている志田淳さんと堀内規生さんがコースについて綿密な打ち合わせ。
志田さんは元箱根ランナーで今大会は前半の20キロを担当。
男子選手の伴走者としてパラリンピックにも出場している経験豊富なランナー。後半を担当する堀内さんはリオでも共に走り、道下選手を銀メダルに導いた1人。
一番気を付けるポイントは?

志田「歓声と人の多さですね」

堀内「路面は止まっていますけど、人は動きますからね。僕らがどれだけ気を付けても、後ろから足を踏まれるとか、突然前の選手が止まるとかも考えられますので」

東京マラソン、大会当日は雨。気温5.7℃。
いよいよスタートの時。
道下選手のスタート位置はエリートランナーたちのAブロックから3つ後ろのDブロック。
一斉にスタート!のはずが…ゲートまでは人が多く走ることも出来ない。ゲートをくぐったのは、号砲から4分12秒後。
最初はなかなか人混みから抜け出せず。ほとんどジョギングのようなペース。

志田「(まだ)オリンピックのコースじゃないけど、道はずっとこんな感じだよ、路面は」

道下「路面の色が変わる区間が…」

志田「色が変わっているところは意外に平ら。はい左シフト」

道下「やばい、全く分からない」

この時、道下選手に何が起こっていたのか?

道下「ほんの少しだけ視力が残っているので路面が赤茶色だったりオレンジ色の塗装してあるっていうのが前のランナーさんのウエアの色と重なってしまうと、とても紛らわしくて」

道下選手は色を感じることはできるが、遠近感は全くない。
例えばオレンジ色のウエアを着たランナーに近づいた場合と…オレンジ色の路面が近づいてきた場合。
それらが道下選手にはランナーなのか道路なのかの区別がつかず、恐怖心が生まれていた。

東京の街を走る上で襲い掛かる危険…加えてランナーの多さが走りを難しくさせる。
前半は人の多さもあり、思うようにペースを上げられない。
しかし、人がばらけだした15キロあたりからようやく目標のラップタイムに。マラソンで最もキツイと言われる35キロからのラップタイムも落ちない。
ゴール直前の石畳。さらに、気力を振り絞り、最後の直線へ。
3時間19分31秒で走りきった。

道下「視覚障がい者が歩道を走ってイメージを膨らませようとすると、色々起伏が歩道にはあるので、まったく違うコースになってしまうので。今回はそういった意味ではすごく貴重な経験でした。足の裏で得られた安心感は変わらないので」

2020年への手ごたえを得た道下選手の夢はまだ始まったばかり。

  • ©NTV
  • ©NTV
  • ©NTV
  • ©NTV
  • ©NTV
  • ©NTV
  • ©NTV
BS日テレ