ストロングポイント

別名・マーダーボール。危険を顧みず、一心不乱に勝利を目指す勇者たちがいる。リオパラリンピックで史上初の銅メダルを獲得。2004年以来、着実に順位を上げてきた。ウィルチェアーラグビー日本代表。集大成とも言うべき2020東京。大舞台までおよそ800日と迫った今年5月下旬。ヨーロッパの強豪トップ3を迎え新生ジャパンの実力をはかる大会が開かれた。
ウィルチェアーラグビーはパラリンピック競技で唯一、車いす同士がぶつかるタックルが認められている球技。「ラグ車」と呼ばれる専用の車いすで両手両足に障がいのある選手がコートを駆け抜ける。コートの広さはバスケットコートと同じ。一般のラグビーと違うのはボール。楕円ではなく、バレーボールを元にした専用球。さらに前方へのパスが認められ、ボールをもってゴールラインを越えると1点。試合は1ピリオド8分。合計4ピリオドで争われ、メンバー交代は自由に行える。
日本代表には2人の注目選手がいる。その一人、エースの池崎大輔選手。今年4月、世界ランク2位のアメリカに単身武者修行。アリゾナ大学の一員として挑んだ試しの大舞台、全米選手権。池崎選手は世界トップレベルのチェアワークとスピードを武器に得点を量産。そして…見事、優勝。しかも、大会MVPにも輝いた。
もう一人の注目選手はキャプテンの池　透暢選手。パスの精度は世界トップクラス。池と池崎、通称「イケイケコンビ」が繰り出す速攻はもはや無敵。しかし、そんな2人をもってしてもリオパラリンピックでは世界一にあと一歩届かなかった。
その理由について、日本代表コーチを務める三阪さんは…
三阪「リオパラリンピックでは池・池崎選手のプレイタイムが多くなってしまった」
5日間、毎日試合が行われたリオ大会。1試合の平均時間はおよそ1時間半。イケイケコンビは全試合に出場しました。
2020東京で狙うのは金メダル。イケイケコンビ以外の選手の活躍が不可欠。そこで日本代表が今、行なっているのがチーム力の底上げ。アメリカやカナダの代表監督を歴任しパラリンピックのメダルをもたらしてきた日本代表ケビン・オアーヘッドコーチは…
ケビン「池崎・池選手のプレッシャーを引き受けてくれる選手が必要。特に永易・官野選手が岸・池崎選手と組んで質の高いチームになるか見たい」
永易選手、官野選手は障がいが重いため、池崎選手のようなスピードはありませんがパスやポジショニングに定評のある選手。この日も試合形式の練習を繰り返し行っていた。
その成果を試す絶好の機会が5月に開かれたジャパンパラウィルチェアーラグビー競技大会。出場国はこの4チーム。予選リーグは各国2試合ずつ対戦する6試合で行われ、上位2チームが決勝に進む。
イケイケコンビを温存しつつ、結果を残す。日本の挑戦が始まる。
予選リーグ　第一試合、日本対スウェーデン。池選手はベンチスタート。
まずはボールを拾った池崎選手がパス。島川選手がそのままトライ。日本が先制。普段はポイントゲッターの池崎選手ですが。池選手を温存している為、チャンスメイクでチームを引っ張る。さらに日本の勢いは止まらない。池崎選手から…またも島川選手へ。開始から2分が経過。
日本のディフェンスの場面でメンバーチェンジ。ケビンヘッドコーチが試したいと言っていた永易選手、官野選手がコートに入る。すると、その直後。
官野選手はマークする相手とボールの間に上手く入りパスカットに成功。カットしたボールを池崎選手にパス。そして永易選手がトライ。
29対13日本リードの第3ピリオド、ここで出場したのは…女子選手。
ここで、上田晋也のふとした疑問を解明していく上田のQ。今回はコチラ。
『ウィルチェアーラグビー日本代表には女性がいるんですか？』
日本代表 三阪コーチに伺うと。
三阪「ルールとしてウィルチェアーラグビーは男女一緒になってプレーするのが世界的に認められているスポーツ」
女子選手がプレイすることのメリットはどの辺なのか？
三阪「通常コートに立つ4人の持ち点の合計は8点。女性選手1人につき＋0、5点上積み出来る」
ウィルチェアーラグビーは障がいの度合いに応じて選手に持ち点が割り振られている。日本のWエース池選手、池崎選手の場合は3点。さらにコート上の4人の選手の持ち点を合計8点以内で編成しなければならない。しかし、女子選手は出場一人につき、チーム持ち点が0．5プラス。上限は8．5点となり、男性だけの編成よりも、より障がいの軽い選手が一緒にコートに立てるのです。ちなみに最も障がいが重い0、5点が持ち点の倉橋選手。動きの制限は多いという。
倉橋選手は日本代表唯一の女子選手。
倉橋「もっともっと女性選手は増えて欲しいなと思います。増えたら競技人口自体も増えることになるし、同性がいるだけでも楽しさがもっと増えるんじゃないかな」
初戦のスウェーデン戦が終了。
57対29、日本が大差で勝利。この試合、池選手の出場時間はゼロ。
その後の2試合も他の選手の活躍により、池選手のプレイタイムをゼロに抑えることが出来た。
決勝戦の相手は世界ランク5位のイギリス。
池選手から…池崎選手へのホットライン。予選リーグで温存してきたイケイケコンビが先制点を奪う。さらに…池選手の超ロングパスに池崎選手が駆け込んで…トライ。そして、日本代表唯一の女子選手、倉橋香衣選手も6点リードの第4ピリオドに出場。持ち前のブロックで活躍を見せる。イギリスのエース、去年の欧州選手権ベストプレイヤーの動きを完全にストップ。仲間が敵を囲むまでの時間を稼いだ。
そして、試合終了。
日本は世界ランク5位のイギリスを破り、優勝を果たした。
次なる目標は6月中旬のカナダカップ。6カ国が参加し、世界ランク1位のオーストラリア、2位・アメリカとの対戦も。
池「アメリカ・オーストラリアはまた違った次元のゲームになってくるのでそこで通用するかが大切。今回の良かった点悪かった点しっかり洗い出して、ベストでカナダカップに望みたい」
そして行われたカナダカップ。
初戦で世界ランク1位のオーストラリアを破った日本。結果、準優勝をおさめた。8月の世界選手権、そして2020東京に向け、ウィルチェアーラグビー日本代表の戦いは続く。