放送内容

第3回「がんと精密医療」

<今回のテーマ>

遺伝子の異常によって生じる「がん」。
その発生に重要な役割を果たす「ドライバー遺伝子」の特定がキーポイントになります。
多くの抗がん剤の開発により治療の幅が広がった結果、今やがんの生存率は男女とも6割を超えています。
そして、抗体と化学療法剤を合体させた新たなクスリが登場!
さらに、たった1滴の血液から「がん」を検出する新たな検査法も開発!
急激な進歩を遂げるがん診療、その最前線に迫ります!

<がんと精密医療>

精密医療とは「一人ひとりの患者に合った最適な治療を行う医療」を表します。
がんは「変異した遺伝子」によって生じることが分かっていますが、体質や生活環境も違う患者それぞれに合った治療を実現するのは、大変難しいこと。
「がんの精密医療」を実現するためには、がんの発生に大きく関わった遺伝子を特定する「遺伝子検査」がカギを握っているのです。

<ドライバー遺伝子>

細胞が分裂を起こす際、何らかの原因でコピーにエラーが起きると、「変異した遺伝子」が生まれます。
その変異した遺伝子の中で、がんの発生や増殖の直接的な原因となるような遺伝子を「ドライバー遺伝子」と呼びます。最近の研究では、4〜5つのドライバー遺伝子が重なることでがんが発生することが分かっています。

<分子標的薬>

がん細胞の表面には、ドライバー遺伝子によって生じる異常な「タンパク質」が存在する場合があります。
そのタンパク質にくっつき、がん細胞に作用するくすりが「分子標的薬」です。
また、がん細胞を増殖させる「信号」を止めるタイプの分子標的薬もあります。
どちらも、分子レベルで狙いを定めて、がん細胞にピンポイントで作用するため、従来の抗がん剤に比べて体への負担が少ないと言われています。

<ADC(抗体薬物複合体)>

固形がんよりも遺伝子変異の解明が進んでいる「血液のがん」では、さらに新しいタイプのくすりが開発されています。
抗体と化学療法剤を結合させた「ADC(抗体薬物複合体)」もその一つです。
ADCでは、抗体が宅配便における荷札の役割を果たし、がん細胞に化学療法剤を直接送り届けて、効果を発揮します。

<がんゲノム>

「ゲノム」とは、私たちヒトの「すべての遺伝情報」のこと。
細胞の核の中には、約30億塩基対という膨大な遺伝情報が納められています。
今、世界37か国1300人を超える研究者がタッグを組み、がんゲノムの異常を調べて、新しい治療や予防につなげる研究を進めています。
研究の結果、がんの原因に結びつく20種類の変異のパターンが見つかりました。

<リキッドバイオプシー>

「リキッドバイオプシー」とは、血液などを用いて行う検査です。
血液中には、体の細胞から分泌される袋状の「エクソソーム」が流れており、その中に情報伝達物質を入れて、体じゅうの臓器や細胞に届けています。
がん細胞から分泌されたエクソソームには、そのがん特有の「マイクロRNA」が含まれているため、それを調べることで、現在13種類のがんが分かるようになりました。
従来のがん組織の一部を切り取る検査に比べて、体に負担がかからず、さらに「ステージ0」の超早期でも発見が可能だといいます。

出演者

●国立がん研究センター中央病院(東京・中央区)

血液腫瘍科
伊豆津 宏二 科長

●東京大学医科学研究所(東京・港区)

ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野
柴田 龍弘 教授

●東京医科大学 医学総合研究所(東京・新宿区)

分子細胞治療研究部門
落谷 孝広 教授

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