イタリアの東。こんもりとした山が見守る丘の上に、わずかな家々が軒を連ねている。
かつて、この村には大きな縫製工場があり賑わいを見せていたが、時代の流れと共に人々が去っていった。でも、穏やかで緑豊かな村の環境は、今も村に生きる人間にとっては楽園そのものだ。

16歳で農家に嫁いだ女性経営者。30ヘクタールの農場に、葡萄やオリーブ、小麦など数えきれないほどの野菜や果物を有機栽培で育てている。その昔、同年代の女性が縫製工場で働き華やかに暮らす中、畑仕事や母親の役割を全うし前に進んできた。目下の楽しみは10年かけて栽培するトリュフ。今年で7年目。3年後の収穫が今から楽しみだ。
もう一人は、1年前に村に引越してきた男性。近くの町で妻と保険の代理店を営んでいたが、子供達も独立し引退して静かな環境で余生を過ごそうとやってきた。何よりも散歩が大好きで、夫婦で新しい小道を歩くたびに、小道に名前を付けて楽しんでいる。
愛読書は聖書。物静かで信心深い今の姿からは想像できない、ある過去がある。